第15話*海*~合宿最終日~
最終日とはいえ、このまま帰るだけではない。まだまだ勉強しなければならないのである。
「五郎、もう出るのかい? 早いね」
「海寄って帰るって聞かないからね。生徒たちはこういうときだけ早いんだよ」
海開きをしているのだから行かないわけにはいかない。持ち物リストにも水着は書いてあるし、たくさん日焼け止めを買ったのはこのためでもある。
レンタカーに荷物と、自ら選んで収穫したかぼちゃを乗せ終えれば出発だ。
「由美子さん、お世話になりました」
「いいのよ。紗綾部長! また来てね。とは言っても、来年は三年生だと忙しいのかな?」
ママさんは部長などとからかってくれるがまた来たい。
「後輩が心配なんでついてきますよ」
「ブゥー、ブゥー」
小袖と李華に鼻を鳴らされても構わない。
「じゃあ出すぞ。ほら窓から顔出すと危ないから」
車が走りだすと私も真空も小袖も李華も、窓から顔を出してパパさんとママさんに手を振る。ノリのいい連中だがかなり危険である。
「超ー広いな」
李華の言いたい事は分かる。
ショッピングモールよりも近くにあった海は、本当にどこまでも視界が広がっていた。
天気もいいし、ここからだと分かりにくいんだけどテトラポッドが沖合いにあることで、波は静かで砂浜も広かった。
「行くぞー!!」
胸元にリボンのついた可愛い水着の小袖が号令すると、荷物番を里見先生にまかせて私たちは海へ突進していく。
ちなみに私のビキニもフリルフレアー全開なので、小袖に負けないぐらい可愛いのだ。
「おりゃ!」
私は海に入ると早速真空に水をかける。彼女の白い肌が日に焼けたら痛そうだなと心配になりながらも、ネイビーのビキニは大きく色鮮やかな花が散らしてあるプリントで、その大人っぽさに結構やるなとも思ってしまう。
そして、ショルダーがない赤色ベースの水着を着こなす李華に、集合時のショートパンツといい遊ぶ服だけは持っているんだなと心配になった。
だいぶ遊んだので休もうかと砂浜にあがると、そこには砂で作った意味不明な造形物やプロ仕様の像まで並んでいた。
「おかしいですよね部長、入ったときはこんなもの近くになかったのに」
「そうだね小袖。ずいぶん流されたのかも?」
「ひょっとして知らぬ間に時空を越えてしまいましたか?」
小袖の意味不明な話に李華は容赦ない。
「あぁ? 何だよそれ」
「ほらほら李華、あるじゃない。映画とかで、嵐を抜けると過去やパラレルワールドに行っちゃうって」
「ふーん。それじゃあ、いい方なのかな。嵐を通るのは勘弁だからな」
「ああ。この前貸したの、もうそこまで読んだんだ!」
何の話か分からないけど、小袖と李華の間では通じるらしい。
二人の話はともかく、これは細かく綺麗なサラサラの砂をアピールしているイベントだということは知ることができた。だけど、里見先生のいる場所は分からないままだ。
探して歩いていると、お約束のナンパに遭遇する。
「ねえねえ、写真一緒に撮ろうよ!」
「あん? なんでお前らと撮らないといけないんだよ」
李華が怖いものなしなのは悪くないんだけど、口実に普通に答えて逆恨みされないかと不安になる。しかし彼らは、名残惜しそうにしながらも簡単に諦め去っていくのであれれと思っていたら、私たちの後ろで里見先生が仁王立ちをしていた。
「いいか、俺は陽が落ちる前にお前たちを家に帰さなにゃいろんなところから怒られるんだから、そろそろ昼食べて帰るぞ」
海の家に行くと、先生のおごりでやきそばを食べさせてもらえる。この景色とタダのコラボに文句などあるはずもなく、うまい焼きそばに舌鼓を打っていた。
あいつらは……。そんな時、海でじゃれあっているあのナンパ野郎たちが目に入ってくる。
「目障りだな」
まあそうなんだけど、男だけで遊んでいるところを考えると残念な結果だったようなので、李華そのぐらい許してやれよと思う。
「先生、ラムネもいいですか?」
李華の無邪気なタカリに里見先生は、
「じゃあ俺の分も」
と、五人分のお金を渡す。
「ほいじゃあ、買ってくるね。小袖、手伝って」
すると、引き連れて行かれた小袖だけが、先に三本を抱えて戻ってきた。
「あれ? 李華は?」
小袖によると、会計をしていた李華から『先に戻っていいよ』と言われたらしい。
そのあと、戻ってきた李華が遅かったので何かあったのかと聞こうとしていたら、海で遊んでいたナンパ君たちが急におとなしくなりコソコソしだしたので、そちらが気になり聞き耳を立ててしまう。
「やっべー、水着ながされったっぽい。誰か隠すもん取ってきてくれよ」
「だっせーな……って、俺も脱げてるっぽい」
「おいおい、お前ら何やってるんだよ」
うん? 水着、泳いでて流されたのかな? でも彼ら、誰も上がってこないんだけど。
「可哀そうに、水着流されたのかな、イッヒッヒッ」
李華の笑い方が気持ち悪い。
水着が流されることはあるとしても、そんないっぺんになんてことがあるのかと不思議だ。誰かが脱がしたんじゃないかななんて考えてしまうんだけど、でもあんなやつらの水着をわざわざ脱がす物好きもいないだろうし……。
まっ、いっか。
「さて、ほんと天気がよくてもったいないけど食べ終わったし、帰るしかないかな」
私の言葉にみんながうなずき、海に浸かっている阿呆どもを見捨てて帰り支度を始めることにする。
シャワーを浴び着替え、車に乗り込もうとすると、
「ちゃんと砂、払いなさい」
と里見先生が、急に強い口調になるのでビックリする。
「いいじゃんか。借り物なんだろ」
李華が言ってしまう。
「いいか三浦、このぐらいの汚れならレンタカー屋さんも何も言わないだろうが、必要以上に汚すことはないだろ。何より、相手に対する思いやりの問題なんだ」
私も気にしていなかったけど、李華が言われているところを見てそれもそうだなとちょっと反省した。
出発すると乗るときのこともあり、みんな黙ってしまう。そして海水浴の疲れからウトウトすると四人ともいつの間にか寝入ってしまい、『お土産を買うので帰りも海ほたるに寄ってくれ』と言いそびれる。
途中起きることなく、気がついたときには学校はもうすぐそこであった。
「家までこのまま送ってくれー」
「焚口ぃ、お前は家が一番近いのにそんなこと言って」
里見先生は意地悪なので、学校の駐車場までしか送ってくれない。
ふむ、歩きで合宿の荷物とかぼちゃの両方は重いな。部室は高温になるからやばい気もするけど、とりあえず置いとくか。私たちは『今度持って帰ればいいよね』と言い合い、かぼちゃを置いて帰ることにした。
駅で真空と別れると、ベタベタした体が気持ち悪いなと急に気になって、早くお風呂に入りたいなと思うのであった。
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