第31話*おみくじの結果*

 あのソラの魔法を見てから何日も経っていない。まあソラは頑張ったかもしれないが、部室で私が使った魔法に比べればまだまだだ。

 暖房の温かな風のおかげで半分しか聞いてなかった授業の時間、嫌な事を思い出してしまったがそれも終わる。

 もう屋上へすら行く気にはなれない放課後、教室を出ると下駄箱へ直行して靴に履き替え、真っ直ぐ正門へ続く石畳の道を進む。

「李華!」

 声をかけてきた小袖は道の中央に立っていたのに気がつかないなんて、私はどこを見て歩いてるんだろう。

「なんだよ」

 突っぱねてみせるが、小袖は意に介さないように話を続けてくる。

「願いをかなえてくれたからお礼を言いたいのに、部活に来てくれないからさぁ」

「願い?」

「真空先輩が転校しませんようにって」

「そんなこともあったっけ。悪いけどそんな話、私には関係ないし。じゃあな」

「待って!」

 『待って』と言われたが、話す事など何もない。だけど足が動かない。

「真空先輩と一緒にいられるようにってお願いしたのは、李華がいてくれるのが当たり前だと思っていたからなんだよ。勝手だって分かっているけど、願いをかなえるために引き換えにするものが必要なのかな?」

「知らないよそんなこと。でも、……いらないんじゃないかな」

「なら、一緒に来て」

 小袖に手を引かれると何故か私の足は動き、そのまままだ春の足音も聞こえない中庭へ連れられて行く。諦めたかのように私は、次第に小袖との距離を詰めると手をつないだまま横に並んでいた。でもその先には、部長と真空がいた。

「そういうことかよ」

「ごめんね、李華。真空先輩から聞いたよ。喧嘩したって」

 喧嘩……?

「私に部長を引き離すように言ったあの日、部室で真空先輩の転校を止めようとして喧嘩したんでしょ?」

「まあ……そうだな」

 小袖に合わせて返事をするが、真空の仕業だな。

「だからあれから部活に来なかったんだね」

「小袖が気にすることねえよ。喧嘩はこっちの問題だし、もう過ぎた話だからさ」

「それじゃあ、部室に来てくれるよね?」

「待ってくれよ小袖、行く前に真空先輩と直接が話したい」

「えっと……」

 心配そうに、小袖はこちらを見つめる。

「大丈夫だって。喧嘩はもう終わったって言っただろ」


 真空と二人にさせてもらい、少し離れたところで部長と小袖を待たせている。

「何? 李華」

 そして私は、咲く花もない花壇を眺めながら話を始めた。

「なあ、私は魔法にかかっているのか? 成功させたのか?」

「私にだって、分からない。いままで魔法を使ったことなどないのだから」

 疑問をぶつけても相変わらずクールだが、これはとんでもない答えだ。

「どうゆうことだよ? それが勤めだろ」

 私は早口になり、問いただす。

「だから、大人の事情……いえ、私の事情よ」

「私の事情?」

「ええ、魔法という力が神から与えられたものだとしても、神の命令で使おうと思ったことは一度もなかったわ」

 ここで一息つくと真空が笑顔になり、話の続きをする。

「けれどこの時が魔法の力で導かれたものだとしたら、神など関係なく使ってよかったと思ってる」

「そっか、そうだな。それは認めてやるけど、私に魔法は効かないからな! 真空、セ・ン・パ・イ!」

「何よ、気持ち悪い」


「ねぇ、話終わった? 寒いよ、部室行こうよ」

「ほら、紗綾が呼んでるから行きましょ」

「そうだな」

「部長ー、終わったよー」

 私は叫びながら、部長と小袖の方へ駆け寄っていく。

「終わりました、だろ。本当に口が悪いな李華は」

 早速怒られると、四人揃って部室へ向って歩き出す。

「ああ、早く春こないかな。それから部長、今年こそトマトだからね」

「それなら次は、李華が部長だね」

「そうね」

「何だよ、二人揃って。小袖、お前やれよな」

「ええ、私? 無理無理」

 菜園部はまだつづきそうである。

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