7/18 回想

やまむら

回想

 青々とした壁が左右に立ち並び、奥まで続いている。壁の終わりには色の剥げかけた朱色の鳥居が立っていた。視界には無数の小さな虫が飛び回り、耳元には何かの羽音が嫌らしく纏わりついている。



 額に浮かんだ小さな汗の粒々を手の甲で拭うと、思っていたよりも汗をかいていることに気が付く。高い気温に自然と視線は落ちていた。足元の階段は無骨な石が敷き詰められ、その隙間からは雑草が我先にと顔を出している。乳酸の溜まった足は小さく悲鳴を上げ始めていた。



 足を引きずるように目的地に近づいていくと、下から見た印象よりも鳥居は小さかった。上体を屈ませて錆びの目立つ神域への門を潜る。顔を上げるとそこには予想に反して小ぢんまりとした社が鎮座していた。周囲は、小さな緑色のドームになっており、地面にはお供え物やお賽銭が、溢れんばかりに置いてあった。私は雑多な印象を覚えた。その反面、社の周囲は比較的綺麗だった。社の真ん中にある台座にはソフトボール大の鈴が置かれていた。周囲を見渡すと、左右から小さめのお稲荷様の銅像がこちらを眺めていた。


 折角来たことだからと、私はお参りをしようと社に近づく。しかし、賽銭箱は見当たらなかった。少々後ろめたさを抱えつつ社の後ろに回ってみるが、もちろんそこにも木箱は無かった。これがお供え物だけではなく、お賽銭も周囲に散らばっていた理由である。

例に倣い、私は五円玉を社の目の前に置いた。無造作に投げたりするのは、何故か気が引けたため、せめてもの礼儀として神様の目前に置いたのである。また、設置されている鈴を鳴らす度胸も無いため、賽銭後は二拍二礼のみを行い、お参りを済ませた。

罰当たりとは思いながらも、私は社の中を覗こうとした。階段下にあった立札に、この神社の説明が書いてあったためだ。



 立札曰く、この社のご神体は石碑であったそうだ。しかし、ある時からご神体は木に変わったという。どうして変わったのかという記述がなく少々むず痒かった。しかし、ご神体は変えてはいけないのではないか等といった無知な疑問が浮かんでしまい、どうしても好奇心を抑えきれなかったのだった。



 実際に足を運んではみたが、満足できるような答えは見つけられなかった。しかし、不思議なもので、生命の溢れる浄化された空間に訪れることが出来ただけで、気持ちは満ち足りていた。最後に私は社へ頭を下げて、その場を後にした。

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