ナイーブさんと秘密のキセキ
新島和
第一章 暗然たる日々に陽光
(本気じゃないくせに……)
今し方、後にしてきた学校の保健教諭の言葉に、家路を辿る少女はその顔を曇らせていた。
少女の名前は村瀬望実。都市部から程遠い小さな町の
本来ならば、まだ下校の時刻ではないのだが、早退を申し出た望実はこうして1人、歩を進めていた。
そんな望実の脳裏には先程掛けられた保健教諭である飯島の言葉が繰り返されていた。
『帰りたい? そう……うん、分かった。それじゃあお母さんに連絡してくるけど、心配だから、家に着いたらいつもみたいに先生に電話してね』
いつもの言葉。いつものやり取り。望実は嫌気が差していた。
その言葉は心底から自分の身を案じたものではなく、何かしら問題が起きては困るという本音を伏せた建前なのだと、少女に理解させていたから。
(先生達なんか、どうせ本気では心配してくれない……)
自宅に帰る気も失せ始めた時、望実はふと違和感を覚えて足を止める。
強烈に匂ってきたのは芳香剤のそれだった。
怪訝に周囲を見回した後、背負っていた鞄に目が行き、直ぐ様中身を
中は無惨な様だった。匂いの原因である芳香剤、それもトイレの物が零れ、濡れたトイレットペーパー、そして汚物入れの中身がぶちまけられていた。
「……最悪」
小さく、そう呟くと、込み上げる様々な感情を押し潰すように奥歯を噛み、思考を巡らせる。
このままでは帰れない。母親に見付かった時、何と言えば良いか分からなかった。
教科書も、もう駄目かもしれないが、助け出さなければ。
少し行った先に公園がある。望実は駆け出した。
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