第4話


この子は全く泳げないのに、なぜかボートに乗りたがるのだ。


二人でボートを漕ぎ、湖の真ん中あたりまで行った。


そこで私はなんのためらいもなく、妹の背中を押した。


水に落ちた妹は一瞬水面から顔を上げたが、なにかを言う暇もなく再び水の中に沈んでいった。


帰ると母が聞いてきた。


「あれ、美穂は?」


私は人事のように答えた。


「一人でボートに乗っているわ」


母は心配そうな顔をしたが、それも一瞬のことだった。


ボートには毎年乗っているのだから。


片付けが終わって食事の用意のとき、母が言った。


「美穂を呼んできて」


「はーい」


私は桟橋からボートを蹴って沖に流してから、湖の近くでしばらく時間をつぶした。


そして帰って言った。


「美穂がどこにもいない」


母が血相を変えて湖へ走り出した。


そして沖を漂う無人のボート見つけて叫んだ。


「美穂――――っ!」

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