第3話

自分がピアノを真面目にやらなかったことよりも、母にピアノを強要されたことに重きをおいていた私は、そんな母を見ても喜ぶことなどできず、そんな妹を見てもただ怒りがわいてくるだけだった。


それまで姉妹の仲に特に問題はなかったのだが、私が妹によそよそしい態度をとるようになり、それに反応した妹も私に同様の態度をとるようになっていった。


二人の間には目に見えない溝ができ、それが日に日に深くなっていったように思う。


母はその件に関しては無関心、と言うよりも気づいてもなく、ただ妹の上達ぶりに一喜一憂するだけだった。



妹が中学に入った頃には、天才少女と呼ばれるほどにピアノが上達し、全国大会の中学生の部で好成績をおさめるようになっていた。


ピアノの先生も初心者専用の人ではなく、プロを目指すような人を教える人材へと変わっていった。


「お嬢さんは素晴らしい逸材です。この私が必ず世界レベルの演奏者に育てますので、安心して見守ってあげてください」


新しいピアノの先生は、時に厳しすぎるのではないかと思えるほどの態度をとったが、妹を名演奏者に育て上げたいという想いは本物だった。


もともとピアノに対して有り余るほどの情熱があり、その上に教えた生徒の名が上がれば自らの名誉にもなる。


そんな人がやる気も才能もある妹を目の前にして、淡白でいられるはずもない。


妹も厳しい教えに、しっかりとついていっていた。



夏休みに、いつものように山の別荘に家族で行くことになったが、母と妹はグランドピアノを別荘まで運ぶと言い出した。


しかし自分たちでも無理があるとどこかで感じていたのだろう。


父の「三日ほどなんだから、我慢しなさい」の一言で、あっさりと引き下がった。


別荘は小さな湖のほとりにあった。


両親が片付けをしている間、妹が「ボートに乗ろう」と言い出した。

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