血戦のイデア
だらけベーコン
イデア・リング侵攻作戦
第1話 落ちこぼれの切り札
『真世界 イデア・リング』。そう呼ばれているこの世界では各々が固有の魔法を用い、生活している。
神器と呼ばれる道具と巡り合うことで真の力をいかんなく発揮するその力は、他が為に使用されるのがこの世界の掟だ。
だが、万が一それを破る者、あるいはこの世界に害を及ぼす何かが現れた時。
そんな悪意ある暴力から全てを守るために作られた組織。
『聖イデア騎士団』
複数の派閥と組織から形成されたその組織はこの世界が誕生して以来、常に異常に目を凝らし、平和と秩序を守り抜いてきた。
現在、イデア暦666年。
真世界の誇る最大の都市『大聖都ルシファー』では、一年に一度開かれる騎士団への入団試験が開かれていた。
「はぁー……ダメだったなぁ……」
一人の少年が階段に座り込んで大きなため息を吐いた。
入団試験の開催場所『オルカ・コロッセウム』の入り口であるそこは夢を追いかける若者たちの希望と決意で満ちていたが、少年の周りにだけはどんよりとした絶望が漂っていた。
いや、正確には他にもいた。
「あれ、もしかして君もダメだったのかい?」
少年に重い足取りで近づいていく彼もまた少年と呼べるほどの人間だった。
「ぅえ……は、はい…そりゃあもう、全然……」
「そっかぁ、実は俺もなんだ」
座っていた少年の横に腰を下ろしてもう一人の少年は人懐っこい笑みを浮かべた。
「俺、アルタ・カリオーサって言うんだ。魔法は息を止めてる間だけ電気を全身に流すことができるんだ。流すだけで何もできないけどね。あぁ、でも触れたら感電するよ」
アルタと名乗った少年はそのまま延々と喋り続けた。
「……ってことで、俺の魔法はあんな試験方法じゃあ評価されない。もっと別の機会があればいいのになぁ」
どうやら彼は自分の結果が望ましくなかった理由を誰かに話して自分に納得させようとしているようだった。それだけならいいかと座っていた少年も適当に相槌を打って誤魔化した。
「果たしてそれは本当だろうか」
それを否定する声は彼らの背後から響いた。
「騎士に入った者の中には神器と出会って尚、騎士にふさわしい、強いとは言い難い能力の者もいる。要は自分の能力といかに上手く付き合っていくか、それが重要だろう?少年」
彼らに声をかけた男性は甲冑に身を包み、剣を携えている。この世界においてその姿をしている人間は限られていた。
「き、騎士殿でございますか!?」
階段に座っていた二人は勢いよく立ち上がり背筋を伸ばした。
「す、すいません!このようなめっそうもないことを……!」
「いや、いいさ。私も騎士に入るには数年必要だったし、その間は君と同じ様に考えた」
笑いながら騎士はどっかりと腰を下ろした。
「アルタ君、君の魔法は使い方次第ではどれ程までにも力に成り得るだろう。めげずに修行に励むといい」
「は、はい!ありがとうございます!」
「うむ、さて。そっちの君は……まだ名前を聞いていないね」
そこでアルタも思い出したように、そういえば……と呟いた。
少年は少し逡巡し、彼らに小さな声で名乗る。
「……ライオット……ライオット・ジョーカーです」
ライオット。そう名乗った彼の声に二人は目を見開いた。
「な…君、いやあなたは…」
「今まで通りでいいよアルタ君。僕はこの通り落ちこぼれだ」
「し、しかし……」
「むしろそうしてほしいな。敬語を使われるのは苦手で……」
はにかみながらライオットは頭を掻いた。
「……分かった」
アルタも少しホッとしたように頷く。
「ライオット君」
騎士がゆっくりと腰を上げ、ライオットの前まで近づいていく。
「人間の一生は長く辛い。だが、諦めないことが大事だ。そうして可能性を探し続けろ。そうすればいつか道は拓ける」
ライオットの肩に手を置き、騎士は微笑んだ。
「さぁ、もう日が暮れるぞ。今日はもう帰って休むといい」
「はい……」
去って行った騎士の背中を見つめ、ライオットは息を小さく吐き出した。
「やっぱかっこいいよなぁ、騎士って」
「……そう、だね」
アルタに曖昧に返事をしてライオットは別れを告げた。
足早にその場を立ち去りながらライオットは小さく呟く。
「…諦めるって選択肢が浮かんだ時には、もう遅いんだよ。何もかも」
いろんな感情が混ざったその呟きを風は遠くに吹き飛ばしていく。
その風の中に何か違和感を感じてライオットは足を止めた。
「……?」
周囲を見渡すと時計塔の上に何かが見えた。
「鳥……?」
それはライオットに気が付いたのか、ゆっくりと向こう側に消えていった。
その様子に、得体の知れぬ悪寒に襲われる。
「……何が起こるの?」
寒気を感じた様に体を抱く少年を見ていた。
「……」
少年は何かから逃げるように視界から消えていった。
少し息を吐き、その場を後にした。
面倒事に巻き込まれる前に、移動しなければ――――。
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