第657話 最終決戦.4
ユイ達とも合流したとき、最後の部屋らしい扉に辿り着いた。
扉の外からでもわかる凄まじい量の魔力を感じる。
既に戦いは始まっている。
支援できる隙はあるのだろうか?
後ろを見れば、みんな何らかの傷を負っていた。
特にノルベルトの傷が酷く、ラヴィーノが決断を下さなければ今頃息耐えていたはずだ。
意識が戻った今、ノルベルトは最後に合流した煌和の連中と共にやって来たカミーユに背負われている。
屈辱だと言いながらも、それでも最後の時に立ち会いたいと付いてきたのだ。
カミーユが万が一にと回復系の魔具を持ってきていて助かった。
あとは、結界術や封印術の大国煌和の技術が良かったのもあるな。
最後の仕上げだと、行く先々で何か術を施していて間に合わないかとハラハラしたが。なんとか間に合ったようだ。
「開けるぞ」
煌和の連中やカミーユ、そしてニックが一斉に結界や防御魔法を展開する。ギギ、と音を立ててアレックスとレーニォが扉を開けた。すると、そこには見たことのない光景が広がっていた。
視界を埋め尽くす攻撃を、ライハが次々に回避し破壊していく。
その姿にゾワリと鳥肌が立った。
姿はライハそのものであるが、なんだこの違和感は。
人の気配が完全に無くなっている。
思わずその場から動けないでいると。
「ああ、我が君。そのような選択をされたのですね」
と、誰かの声がそう言った。
体が動く。
剣がうねる。
目の前に広がるゲルダリウスの攻撃全ての軌道が見える。
その軌道に合わせてダンスをするように前へ前へと進んでいく。
足に纏った風が道を作り、斎主を振れば黒い雨が破壊され、魔力を奪い取る。その度になにかが壊れて作り替えられていくが、そんなのはもう些細なことだ。
『なに!?』
黒い雨が破壊されていく事にゲルダリウスが目を見開き驚きの声を上げた。
こんな事は想定外だと言わんばかりの顔だ。
最低限の動きで回避し、その動きを利用して対象を破壊していけば、既にゲルダリウスとオレの距離は僅かなものになっていた。焦りが浮かぶ顔。
その顔にエルファラがせせら笑う。
どうした?
もうすぐお前の喉元に牙が届くぞ。
そう言って、獲物に狙いを定めている。
『くっ!こんなことっ!』
一旦距離を開けようと更に攻撃が激化していくが、更に魔力が補充されていく事になった。
ゲルダリウスも思いもよらなかっただろう。
しゃぶり尽くされるだけの飴玉が、逆に食い付いてくるなんて。
そう思えば自然と口元に笑みが浮かぶ。
今までのお返しだ。
『っ!!?』
遂にゲルダリウスの目の前に迫り、手を伸ばした。
『ウローダス!!!!早く発動させろ!!!!』
『………はい』
ゲルダリウスからウローダスの方へと魔力が流れる。何をするのか知らないが、やらせない。
ウローダスの腕を掴んだ。
すると、ニックからの魔法が突然反応し、魔法陣を構築、ゲルダリウスの腕に突き刺さって張り付いた。
『ぐあああああああ!!!!!』
叫ぶゲルダリウス。すると一瞬半透明のプレートが浮かび上がる。
[個体名ゲルダリウスの観測者及び管理人の権利を剥奪しました。固定オブジェクト設定始動をキャンセルしました。各ポイントからの魔力の徴収をキャンセルしました。連動システムの停止を確認しました。権限を移行します]
などの文面が高速で紡がれ、全ての機能を凍結しました。と言う言葉と共に砕け散った。
なんだ今のは。
だが、そのプレートが砕け散った瞬間、ゲルダリウスの魔力がものすごい勢いで減少していったのが分かった。
ゲルダリウスの瞳に一瞬絶望の色が浮かんだかと思えば、こちらを見るなり怒りに顔を歪ませ、オレの腕を逆に掴み返してきた。
『…このクソガキ、やってくれたな。だが、許してやる。これでお前は終いだ』
「!?」
ゲルダリウスへと凄い勢いで魔力が吸い取られていく。しまった!!離れなければ!!!
だが、ゲルダリウスは放してやるものかと爪を突き刺し握り込んでくる。
エルファラがゲルダリウスに向かって何重にも魔法陣を展開した。だが、突然足元から黒い壁がオレの体に巻き付いて拘束され、突然の魔法の流れが乱れて魔法陣が解けてしまった。
力が抜けていく。
何とかこの拘束から抜けないと。
ゲルダリウスの空いた手が、剣を構えて狙いを定めている。
『今までよく頑張りました。あとは全部俺のものになれ』
切っ先が迫ってくる。
次の瞬間、目の前に青い線が走った。
吹き出す赤い血、ゲルダリウスの腕が剣ごと宙を舞った。
「うちの弟子になにしてるよ」
「カリアさん!?」
カリアが不思議な色合いの剣でゲルダリウスの腕を切り飛ばしていた。一体何処から!?
「間に合ったか!」
ザラキが天からハイバと共に降ってくる。
ハイバに翼が付いているように見えるのは気のせいだろうか?
『きっ、貴様ら!!一体何処からァ!?』
着地するなり、ハイバの後ろ蹴りが炸裂し、ゲルダリウスが飛び退く。ゲルダリウスの手が外れ、魔力の吸い取りが消えた。
その時気付いた。
凄い数の防御魔法が展開されてる。
エルファラのやつではない。
誰?これ。
『(ライハ、後ろの扉の方に皆いる)』
「まじ?」
いつの間に。
「この建物に掛けられている空間魔法を解除するのに手間取って遅れた。すまんな」
「ザラキさん」
ザラキが床に触れ、床に見たこともない魔法陣が展開されて消える。
ふっ、と変な圧迫感が消えた。
──天井穴空いてる。
『(ほんとだ)』
「…なにあの柱みたいなの」
ものすごくデカイ柱が天井から突き抜けていた。
え?本当にどうなってるの?
『……………』
ゲルダリウスが切り落とされた腕を押さえ、こちらを睨み付けている。
なんだ?再生速度が遅くなっているのか?
普通ならもう止まっていてもおかしくない筈なのに、血がボタボタと落ちていた。
『全く、どいつもこいつも使い物にならない。たかが人間を足止めすることすらできないとは』
ゲルダリウスの拘束が歪んで消えていく。
形勢逆転、といったところか。
だが、それでもゲルダリウスは諦めた様子はなく、こちらを見ている。
『ふ、勝ったと思いましたか?残念でしたね』
ゴゴゴと、地面が揺れ始めた。なんだ?
『そろそろ魔界がここに転移してきます。いくら時間を伸ばしたとはいえ、タイムアップですよ。そちらがなにかコソコソしていたとしても、転移事態は止められない。お疲れさまでした』
更に揺れは激しくなっていく。
此処までなのか。
そこで、ふと、あることに気が付いた。
オレの中からエルファラが消えている。
え!?どこ行った!?
『ウローダス』
その時、高い声が空間に響き渡った。
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