第647話 因縁の相手.1

「……ここは…」


『見覚えあるの?』


たんこぶができた頭を押さえる双子を乗せたネコが訪ねた。


「うん」


目の前にはひとつの門。

ホールデンから出て、この世界を旅する切欠になった出来事が始まった場所。

勇者として召喚され、初めて他の勇者と一緒に任務を言い渡された場所だった。


前よりも随分と縦長になったが、間違いない。


『ここを通るしかないんだよね』


「そうだな」


他に道はない。通過してきた門のように回り道なんて存在していない。今度の門番は何なのだろう。

もう味方は少ない。

双子は補佐は出来るが主に保護対象だ。守りつつ、突破しなければ。


「!」


ギイイと重い音を立てて扉が開く。

入ってこいと言うことだろうか。










「よお、待ってたぜ』











「!」


聞き覚えのある声。


門の中は何処までも数えきれないほどの太く大きな柱の立っている空間だった。あの時の広場の装飾が何重にもコピーされて大きさをいじられているような感じだ。

そんな空間に、1人の男が立っていた。


無意識に体の血が巡っていく。


広場へと足を進める。

エルファラが罠はないと教えてくれるから、まっすぐ奴だけを見て門の中へと進んでいく。


「あん時以来だな…』


背後で扉が閉まった音がした。


「ライハ』


「ああ」


二人の間の空気が張り詰めていく。

肌をビリビリと貫くのは明確な殺意だ。


『ライハ…』


ネコがこちらを見る。

双子も強い殺気に当てられて顔色を悪くしていた。


「二人を頼む。これはオレの戦いだ。我儘かもしれないが、やらせてくれ」


『わかった』


──はいはい。せいぜい死ぬなよ。


ネコが双子を乗せてオレから離れていく。その際、双子が不安そうな顔をしていた。大丈夫だと手を振り、奴と向き合う。


禍々しかった歪な腕は形が定まったのか、安定した形に収まり、その代わりなのか悪魔特有の黒角と、狼と蜥蜴を足したような尾が生えていた。


「ははっ。随分と敵役として相応しい姿になってんじゃねーか。いくら人間の振りしたって、気持ちの悪いその気配は消せてねーぞ』


柄に手を掛ける。


投げ掛けられた言葉に思わず笑ってしまった。


「シンゴ。お前にだけは言われたくないね」

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