第624話 炎の魔人.2

タゴスは本当に力を抑えていたらしい。


先程まで人の型をしていたものがどんどん崩れ、魔族本来の姿が現れてきていた。額からは短くとも黒い角が伸び、爬虫類の尾が生え、肘や膝下には鱗と、鋭い爪が形成されている。


鮮やかなオレンジ色の鱗の隙間からは炎が吹き出し、剣に巻き付いて攻撃の威力を倍増させていた。


そして、攻撃方法もより苛烈に、スピードを上げてユイに襲い掛かっている。


刀よ折れよとばかりに叩き付けてくるタゴスの剣を受け流しながら、ユイが笑っていた。


「くっ、あの頃とは大違いじゃないか!」


その笑みの種類は、よく知っていた。

強敵(ツワモノ)と戦えて心底楽しい、って顔だ。


ユイの刀に纏わり付いている水が衝撃で弾け、タゴスの熱によって蒸発している。

そのお陰でユイの周りでは炎が弱まっているが、それでも時間が立つ毎にタゴスの力が増しており、足場も悪いせいもあって上手く立ち回れないでいた。


「ユイ!退く!」


その時、キリコと同じく赤髪の子が突っ込んでいった。


思い出した。いつかのガラエーの子だ。

というか、ネコやキリトはどうしたんだ?姿が無いが。


「良い?ちゃんと私に扱いやすいように調整してよ」


後ろでナリータがアウソと魔力調整を行っているのを聞きながら二人を探すも見付からない。双子は結構離れた所で何かしているが、今のところ無事なのは確認できている。


「やっ! はっ!」


ユイと入れ替わるようにガラエーの子と攻撃を交代した。

短剣の刃が、タゴスの炎をもろともせずに鱗の表面を削り、火花を散らした。


『ヴヴ…、ガァアアアアッッ!!!』


獣の様な唸り声を上げてタゴスが吼えた。


「うっ!?」


体から衝撃波が放たれ、ガラエーの子が勢いに負けて飛ばされた。


「グロレ!」

「わぁ!」


ユイがガラエーの子、グロレを受け止めるその隙に、タゴスは地面に両腕を突き刺すと、一気に持ち上げた。腕に絡みついた溶岩が固まり、ドラゴンに似た大きな腕が二人めがけて振り下ろされる。


「おわっ!?」


「二人とも伏せろ!!」


タゴスと二人の間にジャンプすると、冷気を放った。


「エケネーイスッ!!」


ナリータが叫ぶ。

そこへエケネイスが長い体を滑り込ませてきた。


凄まじい轟音と共にエケネイスが爪を受け止め、ギシギシと軋む。エケネイスの周りを浮遊する海水が、オレの冷気とナリータの魔力によってエケネイスのひび割れた部分に入り込み、新たな氷を形成して強化されていく。


「聞いたわ!あんたサラマンダーなんですって?? 喜びなさい!あんた達の天敵である私のエケネイスが相手してあげるわ!!」


嬉しそうなナリータ。


聞くところによると、エケネイスはサラマンダーの天敵なんだそうだ。強烈な冷気がサラマンダーの強さの元となる熱を奪っている。現に、エケネイスと触れている箇所が綻び、冷えた石となった欠片がボロボロと崩れていた。


しかし、それはエケネイスも同じこと。


ポタポタとサラマンダーの放つ熱で氷が溶かされ、エケネイスの体に細かいヒビが入っている。


これは耐久勝負だ。


「もっとちゃんと調整しなさいよ! 私のエケネイスと良いのアンタくらいなんだから!」


「わかってるってばーよ!!」


アウソの作り出した海水が、ナリータの魔力でエケネイスに変化していく。それにともなって、エケネイスの体は少しずつ変化していく。


─── ズドン!!!


コノンの方でも大きな爆発が起こり始めた。


斎主を抜いてタゴスへと斬りかかる。


「!」


だが、斎主の驚異を察してか、タゴスはこちらを見るなり口から大量の炎を吐き出した。

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