第九章 最終決戦
第623話 炎の魔人.1
冷たい目。どこまでも凪んで揺れることのない心。
剣士ならば誰もが目指す道だろう。目の前の敵に勝つために。
心は凪。されど、炎よりも熱く。
──だけど。
(コノン)
だけど、貴女は望んでそうなったのではないのでしょう。
(コノン)
全てに裏切られ絶望した貴女は、裏切った全てを棄てたのね。それこそ、最後まで信じようとした己の心まで。
(自分のエゴなのはわかっている)
でも。
(でも、私は貴女を)
─── 救いたい。
突然現れた人物に、一瞬思考が停止した。
いや、まてよ?ここでは、移動魔法を使うには何らかのマーキングが必要な──、ちらりと神出鬼没だった双子が頭の中を横切ったが、あいつらもきっと何かのマーキングをしている筈だ。
なのに、初めてであろうここに、大人数で移動してきた。
「どうやってここが?」
「貴方の所持する光印矢ですよ。貴方のあっちこっちに放置されてた矢も使いました」
ノノハラの隣にしゃがみこんだナナハチが答えた。
思わずあのバチバチを警戒したが、何故か何ともなく、普通の人と同じになっていた。
確かにオレは万が一にと、来た道の拠点に矢をマーキングしたまま置き去りにしていた。でも。
「光印矢? でもあれって一方通行じゃ?」
チッチッチッ、と、目の前でナナハチが人差し指を左右に振った。
「どんな魔方陣にも裏技というものがあるのですよ」
「なるほど」
どうやら魔方陣にもゲームのバグを使って、みたいなやり方があるらしい。
いつか調べてみたいものだ。
そんな事を考えていたら、目の前に厚底靴が落ちてきた。
「おい、そこの……、…」
「…ライハです」
「ライハ。ノルベルトは何処にいるの?姿が見えないんだけど」
キョロキョロとナリータが辺りを見渡している。
「ノルベルトさんは──」
最後の光景が思い浮かんだ。
「──もう少ししたら追い付いてくると思います」
「そう!わかった!じゃあ頑張って敵を弱らせとかないと」
ナリータが気を取り直して前を向いた。
正直、あの状態で本当に此処まで来られるか分からない。
ニック達の結界も解けている可能性もある。だけど、そんな事を今ここで言えない。
本当にどうなっているのか分からない以上、無下に士気を下げるような発言はできない。
氷の怪物、エケネイスがシュウシュウと音を立てて首をもたげ、ふとある方向を向いた。
すると、エケネイスに向かってアウソが吹っ飛んできた。エケネイスはそれを避けることはせず、首をたゆませて衝撃を逃がし、アウソもエケネイスに無事着地。そして、足元のエケネイスと、こちらを見て少し驚いた顔をしていた。
多分あれは、増えてる!?って顔だ。
そのまま地面に着地すると、見たことのある顔と知らない顔とが混ざっていて困惑したが、そんな事に気を掛けていられないと、タゴスを指す。
「あいつ、めっちゃ強くなってる!…てか、あそこの蛇、蛇?も気になるし。こりゃどっちか確実に沈めないと出口に辿り着くのもムズいぞ!」
ドンッ!と、火柱がタゴスの居るところから立ち上った。たしかに、この状態では下にあるという出口の確認すらできないし、行く方法を模索することもできない。
どうしたもんだと考えていると。
「私にコノンを任せてもらえないか?」
そこへ、ノノハラがそんな事を言う。
「いや、でも、多分コノン滅茶苦茶強くなってますよ。とても一人では…」
ふふ、と、ノノハラが笑う。
その笑顔は、初めて会った時には考えられないほど優しいものだった。
「誰も一人でとは言ってません。ナナハチやコマも一緒です」
コマ?
視線を感じて横を見ると、シェパード程もある柴犬が、オレに向かってワン!と言った。
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