第593話 第三の門番.10
シラギクが穴を見つめ、狙いを定め始めた。
あ、この人なんの対策もなしに飛び込む気だ!
「キリコさんさっきの針一本下さい!!」
意味が分からないという顔をしながらも、まだ余っていた針を頂戴すると、すぐさま光印ノ矢でシルシを付けるや扉の外へと放り投げた。
シラギクが飛び、あとに続く。
一瞬の浮遊感の後、景色が上へと引っ張られた。
光が乱反射した空間は何処までも神秘的で、まるでステンドグラスで出来た万華鏡に飛び込んだみたいだ。
シャリンシャリンと音が鳴っている。アレックスとアウソに破壊された鏡が元に戻ろうとする音だ。だが、アウソの海水に含まれた塩の結晶によって修復が阻害されていた。
「ネコお願い!」
『分かってるよ!』
空間一杯にネコの尾が伸び、皆を掴まえた。
キョロキョロとシラギクが辺りを見回しながら、杖をしきりに気にしている。
「!」
魔力を見る目と粒子を見る目がとあるモノを感知した。
糸だ。か細い、赤と白に輝く糸が杖から伸びて真っ直ぐに伸びている。
「アレックス!アウソさん!」
視界一杯に迫ってきた鏡に二つの魔法が炸裂した。
いくつものかがみを突き破り、奥へ奥へと落ちていく。
目まぐるしく光が煌めきながら崩れていく。
「あそこか」
目が、糸の行き先を捉えた。
鏡が砕けて光る粒へと姿を変えて落ちていく。その遥か下、鏡から差し込む光の帯が揺らめきつつも届くことの出来ない最深部へと糸は続いていた。
宇宙空間に放り出されたときに見えるのはこんな景色だろうか?
ボウボウと唸るような音が聞こえている。空虚、そんな言葉がとてもよく似合う。
だが、そんな巨大な怪物の腹の中のような空間にでも、薄ぼんやりと何かの光がポツンと孤独に光っていた。
黄金の光の集合体だ。
それはどんどん大きくなり、歪んだ形の蜂の巣を隕石にでも張り付けたかのようなものになった。
スポンジの穴の中ははちみつ色に満たされ、上から落ちてきた鏡の欠片を吸い込んでいる。
その穴の中に糸は続いている。ならば、ニックはこの中だ。
魔力を溜めきったシラギクが、杖をアレックスに手渡し、腰に差したもうひとつの刀を抜き取った。
「ネコさん。わたしが合図したら彼処へと突っ込んでください」
『でも、結界みたいなのがあるよ。大丈夫なの?』
確かにネコの言う通り、表面上には結界らしき膜が確認できた。
シラギクはにこりと笑い、前を向く。
着物は更に白さを増し、目の赤はますます深まる。そして、先程までなかった模様が額に浮き出ていた。赤い丸。
気配も魔力も、いつものシラギクのものではない。
「大丈夫ですよ」
刀を目標へと向け、魔力を解放した。
「私の嘴は、どんな結界でも突き破るのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます