第592話 第三の門番.9

誘うように僅に開いており、廊下が覗き見える。

もしかしたら偽物かもしれない。


そんな疑念が頭をよぎるも、勘があれは本物なのだろうと何となくの確信があった。


見逃された。

だが、流石に、このまま進むわけにはいかない。


「…………虎の尾を踏みましたよ、アナタ」


突然聞いたこともない圧を帯びた声が聞こえてぞわりと鳥肌が立つ。

一瞬誰の者なのか分からない声だった。


氷の声だ。


次いで、ダンと思い切り床を蹴る音が響く。


「全体的に同意するぞ。あのクソピエロに今までの恨み辛みをぶつけてやるんだぞ!!」


アレックス激怒。


激しい怒りの感情と共にジャスティスに魔力が満ちていく。

あっという間に地面へと消えていったその無力な己にも怒っている様だった。


そして、それはオレも同じ。


シラギクもニックの杖を拾い上げ、ちょっと今までに見たことのない顔で魔力を練り上げ始めていた。


「そうですね。私もそろそろ、堪忍袋の緒がブチキレました」


そう言うや、袖口から真白の棒を取り出す。


途中に白銀の装飾が施された鍔が見えることからあれは刀なのだろうと推測できるが、それは抜けないように紫色の紐で封印されていた。それをシラギクが無言で手解き始めた。


「アレックス、私が道を示します」


袖を手解いた紫色の紐で袖を纏め上げ、ニックの杖に何かを語り駆けると、真っ直ぐにとある方向を指した。


「どでかい火の矢を撃ち込んでさしあげなさい」


そして、とシラギクがくるりとこちらを向く。


いつも優しそうなシラギクの気配が獲物を狙う猛獣のそれへと一変していて、オレとネコの肩がほとんど条件反射で跳ねた。


「手伝って下さいますね」


「勿論です!」


流石にオレも絶望とブチキレが容量を突破しそうだったし、何よりもシラギクの笑顔が怖かった。


「アウソさん。お願いがあります」


「はいなんでしょう」


ヒョッとアウソの背筋が伸びた。


「大量の海水で、アレックスの焼いたところをすぐさま冷やして下さい。


過去に聞いた話では、この鏡術、魔法を跳ね返す特性はあるものの、熱の上下が激しいと自壊し、不純物が多く含まれていれば自己再生が上手くいかないと。なので、出来うる限り塩分多目でお願い致します」


しゃべり方はとても穏やかなのだが、それが寧ろ恐ろしさに拍車を駆けていた。


「!」


ふとシラギクに違和感を覚える。


「あんまり調子に乗っては、手痛いしっぺ返しを喰うというのを、これでもかと思い知らせて差し上げます。ライハさんにおかれましては少しばかり時間を頂きますが、流石に、これ以上お友達を無くすのは辛いのですよ。分かって頂けますよね」


着物の色がうっすらと変わっている。端の方から白へとグラデーション掛かり、瞳も左側が赤みを帯びていた。


もしや、この人──
















「ショット!!!!」


爆音。振動。凄まじい光が鏡の間に乱反射して視界を白く眩ませる。


返ってきた火炎弾の余波が直撃する前にアウソが放った海水によって掻き消され、急激に冷やされたガラスがクーッと鳴いて、全体的にヒビが入って自壊した。

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