第582話 第二の門番.11

一体、何処から?



そう思う間もなく、更に二本、鉄糸がノルベルトに突き刺さる。


「ぐふっ…」


口から血が滴る。


「ノルベルトさんッ!!!」


膝を着くノルベルト。だが、すぐさま振り返り大剣を振った。

甲高い音を立てて鉄糸が弾かれた。


放たれた先に、アラクネ・トスの残骸があった。それがミシミシと音を立ててひび割れて来ていた。糸は高質化しており、さながら孵化直前の卵のようだ。その隙間から鉄糸が放たれる。


ノルベルトはすぐさま大剣を盾にし、鉄糸を防いだ。


『…ち…』


隙間から声が漏れてきた。

アラクネ・トスの声か?一段高いくぐもった声だ。


鳥肌が立つ。

ヒビは少しずつ広がっていき、中で動く影が見える。


粒子の目には、その影がはっきりと見えた。


アラクネ・トスの中から、新しい蜘蛛が形作られていた。


子供ではない。

蝶がサナギから形作られるように、蛇が脱皮をするように、アラクネ・トスはどろどろと自分の体の中を溶かし、自分の体を作り変えたのだ。



次々に放たれる鉄糸を防ぎ続けるノルベルト、しかし、鉄糸が突き刺さった箇所からはダラダラと血が流れ出していた。


「このっ!!」


雷の矢を放つも、外甲や糸に守られて後ろへと流されていく。効いている様子はない。


「シラギクさん!!結界を!!」


どうにかしてノルベルトを扉の向こうへと避難させ、治療を施さなければ!


そう思い、扉を見るも開いた向こう側ではシラギク達が此方へ向かって何かを叫んでいた。

此処へ来ようとしても、何かに阻まれているようで、アレックスの弾丸でさえ貫通しない。


シラギクの結界の助けは期待できない。


血の気が下がる。


『…せめて、お前だけでも道連れにしてやる…っ』


呪いの言葉だ。


あの状態でノルベルトを回収しても、アラクネ・トスの集中攻撃は止まない。かといってオレの跳ね返しの結界はゼロ距離でしか発動できない。


そんなオレの意図を読み取ったのか、突如アラクネ・トスの攻撃が扉へと向かう。扉の枠組みへと鉄糸が突き刺さり、景色がぶれた。

扉を破壊されれば進めなくなる。


アラクネ・トスが嘲笑う気配。


そして、気付いた。

運の悪いことにノルベルトが居る位置も、ノルベルトが退けば、攻撃が扉へと到達してしまう。






迷う。だが、それは一瞬だ。






いや、オレがノルベルトの前で攻撃を跳ね返しつつ、全力で撤退する。





決意し、一歩脚を踏み出した、その瞬間。


「!?」


思い切りラビに殴られた。


「阿呆。お前は前に進むんだよ!」


「せやせや!!殿しんがりは俺等の役目や。邪魔すんな!」


「うおっ!」


レーニォに担ぎ上げられた。

人を担ぎ上げるのはよくやったが、やられたのは初めてで怖い。


そのままズンズンと扉へと連れていかれる。


ノルベルトの方へは壊れた建物の残骸を盾にしながらガルネットが向かい、ノルベルトから大剣を奪い取り、盾役を交代していた。


再び扉へと鉄糸が迫る。

それをラビの火炎弾が弾いた。


「待て!殿は俺等の役目って、」


「言葉の通りや!人は足りとる。余計な奴はさっさと行け!」


『でも扉が…』


ネコの口をラビが塞ぐ。


「男がかっこつけたい時を邪魔すんな。本当はレディの前でやりたかったが…。まぁ、あとはな」


ラビとレーニォが顔を見合わせて笑う。


「お前に恩が返せる良い機会や。返させろ」


「そーだそーだ。借りっぱなしは良くないからな。ノルベルトも多分何からの言葉はあるだろうけど。それは後ででいいよな」


ノルベルトが此方へと向かって小さく手を振っていた。口を開けば何かが出て来そうなのだろう。


「ノルの面倒を見るのは僕の役目だからね。それよりも早く行って、さっさと倒してきてよ」


「だ、そうだ。じゃあまた後でな」


「すぐに追い付くさかい」


言い終えると、レーニォがオレを扉の向こうへと投げ飛ばした。


『フギャッ!?』


ネコが落下の衝撃で転がる。


「ライハ!」


「あいつらは!?」


急いで起き上がると、出てきた扉の景色は真っ黒だった。

扉はヒビが広がってきている。


音は聞こえない。


ぐっと歯を食い縛り立ち上がる。


「アラクネ・トスが復活して、ノルベルトさんが中心となって殿を努めてくれてます。先に行ってくれと…」


「…………、そうか。わかった」


オレの表情と言葉で、ニックが何かを察したのか頷いた。


「あいつらは一度決めたらテコでも動かない。ここで待っていても、片が付くまで来ないだろうさ。それともお前はここで待ってるか?」


ニックがオレに問い掛ける。


「いや」


首を振る。


「進もう」


時間は無いのだから。







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