第570話 変質者.4
「ラビが来た道ってどんなだったん?」
まだ顔が残念なことになってるけど。ユイの出してくれた水により顔を洗い、少し落ち着いたレーニォがラビに訊ねた。
「一本道だったぞ。ひたすら真っ直ぐな。扉も窓もない、不気味だったよ。ほら、こんな感──!!?」
ラビが道を見て驚愕の表情を浮かべた。
何だと覗いてみると、道が消えていた。
正確には道はあるが、それも五メートルほど先には壁があり、袋小路のようになっていた。
さっきオレが見たときにはこんなになっていなかったはずだ。
「行き止まりだね」
と、ガルネット。
「結界か?」
ノルベルトが壁を指差しシラギクに訊ねるが、少し壁を触り、首を横に振る。
「結界ではありません。“本物の壁”です」
「だがラビが来た以上、此処にはこんなもの無かった。とすると、創造魔法か。蓋をされてるだけなら壊せるが…。ガルネット、頼めるか?」
「ん」
ガルネットがハンマーを担ぎ、柄のところで軽く叩いた。が、音を聴くやムリムリと手を振る。
「音が硬いし響かない。こりゃあ壊せる幅じゃないね」
「……おっそろしい事しやがる。魔力の無駄使いだ」
ニックに同意。
ちなみに粒子の目で見ても透過できなかったから、相当な厚み、軽く二メートルは越えるだろう。
「とすると、真っ直ぐ行くしかないか」
残された道はそれしかない。
コツコツとオレ達の足音だけが廊下に反響する。
窓がないが、短い間隔に設置された蝋燭のお陰で十分明るい。
だが、その蝋燭の火は魔法によるものだった。炎が揺らめく度に魔力の光がチラチラと見えた。ニックは居心地が悪そうに、隠れて杖を握りしめている。
それもそうだろう。
なんせこの蝋燭、オレ達が近付くと火が灯り、遠ざかると消えるのだ。それはつまり、敵はオレ達を絶えず視ていて、それなのに攻撃をしてこないのだ。
これは罠なんだと理解していながら、あえて飛び込んで行くしか術がない。虎の穴に入らねば虎子を得ず、だったか。
心境的には前方の虎、後門の狼だが。
ひとまず飛び矢などが無いのが助かる。
アレックスはつまらなさそうにしているが、そこは耐えてもらいたい。
キリコは少し慣れたらしく、まだアウソを盾にはしているが距離を詰めていっていた。何がダメなのか?
分からんが、何かあるのだろう。
双子はネコと何やら楽しくお喋りしている。
それだけを見れば遠足のようなのだが。
シラギクとニックはしきりに天井を見渡しながら何かを探しているし、ノルベルトとガルネットは後方を警戒中。
レーニォはノルベルト達と同じく周りを警戒しながらも気をずっとラビに向けていた。気持ちは分からないでもないが。
「ライハ、ちょっといいか?」
「ん?」
ラビが話しかけてきた。
前方警戒中だったから、どうしようと一瞬躊躇うも、ユイが「少しなら大丈夫だ、行ってこい」と背中を押してくれ、ありがたく頂戴した。
積もる話はある。
「たくさん心配を掛けた…、ごめん。敵わなかった…」
「あれは仕方がない。オレも実際死にかけたし…、カリアさんが助けてくれなかったら皆と同じところに行ってたさ」
今覚えば、オレはあの時完全に死ぬ気でいた。
カリアが庇ってくれていなかったら、こうしてまた言葉を交わすことも出来なかっただろう。
「そういや軍はどうしたのか?別行動作戦中か?」
「実は色々あって辞めてきたんだ。エドワードさんには最後まで迷惑掛けっぱなしだったよ。あの事件でのオレの処遇をどうにか軽くしようと内部の上層部含め庇ってくれた。……録でもない部下だな、オレ」
「何いってんだ。こっちはエドワードのハゲに毎回無茶ぶりされてたんだぞ。お互い様だ」
「……言われてみればそうか」
毎回毎回笑顔で超ハードな課題寄越されてたもんな。
チャラだな、これ。
「あ、そうだ。これ」
ラビの双剣を渡した。
持ってて良かった。
目を輝かせたラビが双剣を手に取り、愛しげに撫で回す。
出会ってからずっと使ってる武器だ。まさか手渡せるとは思ってなかったが。
ここに辿り着くまでに拾ったらしい武器を捨てていた。
切り替えが早い。
「持ってきてくれたのか!!ありがとうな! ……生きててくれたと思ってたんだな…」
形見がわりに持ってたなんて言える雰囲気じゃねーな。
「小まめに手入れしてたから切れ味は悪くなってないと思う」
「助かる」
結局言えなかった。
「ライハ、曲がり角だ」
「!」
ユイが示す。すると、廊下が壁によって途切れ、右側に通路が。
警戒しつつ、廊下を曲がれば、目の前に大きな扉が聳え立っていた。
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