第562話 第一の門番.1

敵が居ない。


だいぶ走ったが、拍子抜けするほどに誰も居ない。


「まさか罠すらないとは…」


ニックがぼやく。

そりゃそうだろう。だって絶対にあると思ったのだから。


「こりゃすぐに親玉ん所に辿り着けるか?」


「…いや、どうだろう」


そんな簡単にいくだろうか?

勘だが、いかないと思う。


「!」


シラギクがハッとしたように前を向いた。


「どうした?」


それに気付いたニックが声を掛けると、シラギクが少し前方を睨み付け、聞こえない声で何かを呟いた。


「あの曲がり角の所で、空間が断絶されています。潜るとき少し衝撃が掛かるかも…」


「空間が断絶?」


どういう事だ?


「一種の結界のようなものですが、彼処から向こう側は全く違う空間です。いえ、結界というよりは移動魔法が張られている感じでしょうか。とにかく、各々気を付けて!」


「ぼやっとしかわからなかったけど、了解!」


「行くぞ!」


シラギクに言われた地点へと足を踏み入れた瞬間、どんっ!と前方から衝突したような衝撃が加わる。そして、その感覚は引き伸ばされ、ばつんと突き抜けた。


「うおっ!?」


何かに脚を取られて転倒する。


『びゃっ!?』


その勢いでネコがフードから前方に吹っ飛んだが、悲鳴を上げつつちゃんと着地をしたらしい。


「ちょっと大丈夫?」


デアが心配そうに声をかけてくれた。こんな気を引き締めていないといけない時に恥ずかしい…。

大丈夫ですと返答しつつ顔を上げ、見間違いかと思わず目を擦った。


「こいつは…」


「……」


「どっかの遺跡かい?」


目の前に広がるのは植物に覆われた廊下だった。だが、綺麗に並べられたレンガは無く、あちこちひび割れ、朽ちたレンガに覆い尽くさんとばかりに根を張った蔦から、茶色がかった葉が疎らに付いている。


「…何処だ?ここ」


明らかに城の中ではない。

もしやと思い後ろを振り返ると、来た筈の廊下がなかった。


ちょっと血の気が下がる。


もしかして堂々と罠に引っ掛かったのでは無かろうか。













『愚か者が引っ掛かった』












「!」



人の声。


反射的に声のした方へと顔を向けると、崩れた壁の向こう側にある樹の枝に、悪魔が一人立ち、こちらへと視線を向けていた。


『お前らか、侵入者というのは』


「…お前は?」


『私は第一の門番、クスジュ。ウローダス様の命でお前達の相手をしろと言われた。本来なら閉じ込めるものだが、ゲルダリウス様のお遊びでわざわざ出口を作ってやった。何でも、元の主と遊びたいんだと。よくわからんが、感謝するが良い』


ゲルダリウス、その名が出た瞬間にエルファラが反応した。


『だが、私とて複数の命令をこなすほど器用ではないのでな。最優先事項の戦力を削ぐ、または皆殺しを実行する。巧みに逃げて、もしくは犠牲者を出せば次に進めるかもしれんぞ?』


後ろで、殺気を放つ人物がいる。


『まぁ、一応ゲルダリウス様の命もあるのでな、出口は森の中に見える塔の中だ』


そう言って、クスジュはその背中に生えた大きな翼を広げた。


『さて、始めようか』


クスジュが言い終えると同時に廊下が激しく揺れ動き、崩壊し始めた。いや、一斉に蔦が蛇のように動き始めた。


「みんな走るんだ!!」


アレックスが大声を上げながら駆け出した。

ニックを担いで。


地面が抜け始めた。そこから見える景色は土ではなく、高い樹の上。

本当に何処にあるんだこの廊下!?


「ネコ!!」


飛んできたネコを回収しつつアレックスに続いて駆け出した。

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