第517話 総力戦、開始.3

遥か向こう、軍の目的地であるホールデンの首都近くで、巨大な砂埃が立った。


それを見て、兵士達が一斉に歓声を上げた。


「おおおお!!!」


その視線の先には、彼らにとって英雄と崇める青年の姿があった。嘗ての伝説の遊撃隊を率いていた隊長ライハである。


ライハは巨大な蛇の首と下半身をもつ女性型の魔物を相手に剣を奮い、大立回りを行っていた。弾ける電光と、多種多様な魔法が炸裂し、兵士達の興奮は高まっていった。


「遊撃隊隊長だぞ!!!」

「やはり来てくれると思った!!!」

「誰だ逃げたとか言った奴は!!俺たちよりも先に戦ってくれているじゃないか!!!」


確かにあの“白灰の荒野”の戦いで色々言われていたが、それを含めても兵士達の憧れである隊長である。士気が上がっていくのは自然と言えよう。


どうにかして力になりたい。


誰しもがそう思ったのは仕方ないと言えよう。


「総員!!全力で援護するぞ!!!英雄の戦いの邪魔をさせぬように、周りの敵を掃除せよォオオオオ!!!!!」


と、思った矢先、この軍を仕切っていた司令官が暴走開始した。

作戦も何もあったもんじゃないが、それを切っ掛けとして堰を切ったように次々と各部隊が向かっていく。そういえば、司令官は根っからの英雄ファンだった事を思い出した。


士気は最高潮。どうせ魔物との戦いになるなら乱闘は避けられまい。


続けとばかりにうちの隊長も剣を振り上げ雄叫びを上げた。


やれやれ、やはりこうなったか。

杖を振り、出来る限りの魔法で補助を掛けた。


アーノルドは、ギリスから伝えられた作戦を思い出す。


軍に所属してはいるが、本命はギリスから伝えられた作戦が優先だ。軽く禁忌に触れはするが、緊急事態だ。禁忌を守るために全滅しては元も子もないと、ギリスの長、マーリンが許可を出したのだ。


アーノルドは全滅した遊撃隊と仲が良かった。だからこそ、酷く悲しみ絶望したし、狂い掛けた。だが、それを見かねたマーリンが今作戦を伝え、英雄の真の姿を教えてくれたのだ。


世界を救う、本物の勇者。


それが彼の正体だ。


だけども、彼の本来の性格も知っている。だからこそ、アーノルドは持てる力でもって手助けをしたいと思っていた。その機会がこんなにも早く来るとは思わなかったが。


(本当なら側で戦いたかったですが、あちらにはマーリンの弟子のニコラウス様もいらっしゃる。ならば、私達は全力で支援をするのみ!!)


隣の魔術師にも目配せし、禁忌である精神誘導魔法を軍全体に施す。ドンタッチの魔法が効く限り、彼らは結界に絶対に触れない。触れられない。


スイッチは軍が結界に入ること。ならばそれ自体を無意識化で禁止してやればいい。


隊が動く。


「突撃!!!!」


隊長の指令により、敵へと突撃していった。















「ニック!!!」


「分かってる!!トゥビ・アウトヴ・フォウカス!!」


ニックの方向から光の矢が飛んでいく。

蛇の瞳が開かれる瞬間、目の前で光が広がり波打った。


蛇の視線が強制的にずらされて、近くの魔物が固まった。

再び瞳が閉じられると、光の膜は砕け、消えた。


「長くも持たねーし、連発も出来ねぇ!!早く何とかしてあの瞳を潰せ!!」


右方向から蛇女の腕が、固まった奴等を一掃するように迫ってくる。


ニックの魔法でユイも今回は無事だ。

魔力を纏わせた剣を振るい、腕を消し飛ばす。


「オーケー!頑張る!!」


砕け飛んできた腕の欠片を、今度は剣にリバースの結界で受け止め、そのままコノンへと弾き飛ばした。


「そんなの効かない』


だが、飛んでいく土塊はコノンが手を翳すだけで軌道を変えて逸れた。


やはり創成魔法で作られた物体は、手を離れても支配下にあるらしい。だけど目的はそれじゃない。


ユイが魔力を練り上げ、その魔力が全て水へと変化する。それが龍の形に変わると、ユイの腕の動作に合わせて躍るようにコノンへと飛び出した。


大きく口を開けた水蛇に気が付き、コノンが残った腕で防御した。消し飛ばされた方は半分ほどしかまだ再生が完了してない。


水蛇が腕に噛み付く。だが、水が土へと吸い込まれる。

ある一定の水分を保持してない土は水を吸い込みやすい。土に対しての水の攻撃は不利だ。だが、そんなことユイもオレも把握済みだ。


半分ほど吸い込まれた時、ナリータが何も居なかった場所から現れて、左手をユイの肩に置き、水蛇に向かって右手の人差し指をさす。

ナリータから魔力が溢れる。


「我はナリータ・モーラ。嘗て偉大なるレモラの子孫である。我が名を以て命ずる。我に下り、従え。従うならば名も無き水蛇に仮初めの姿を与える」


「許可する」


ユイが水蛇の指揮権をナリータに譲渡した。

途端、水蛇の内部が白く濁っていく。


「従え、《エケネイス》」


バキンと水蛇が凍り付き、蛇女の腕が氷蛇によって地面へと固定された。

腕に吸い込まれた水すらも凍り付き、それが蠢いて蛇女の体内を侵食しようと行動を開始した。


「くっ…』


コノンが顔を歪める。その隙を狙い雷の矢を蛇女の目を目掛けて射った。


だが、矢は目に当たる寸前に気付かれ、狙いを逸らされた。


「この!!悪魔め!!!』


蛇女の頭から無数に生えた髪のようなものがざわめき、それぞれが独立して“首をもたげた”。


「…………おっとー」


嫌な予感。


「貫け!!!』


無数の髪が凄まじい勢いで降ってきた。



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