第513話 決戦前.11

アーリャ。

パーティーランクの昇進試験を担当してくれた試験官。

光彩魔法を使う、とても可愛らしい容姿の方。


なのだが、実はそれは仮の姿だった。


「……うん、何となくだけど理解しました」


「何となくでも理解出来たなら良い」


と、アンノーンからお褒めの言葉。


「俺はさっぱりだ」


だが、まだ魔法慣れしてないユイはまだ混乱している。


「ユイさん。慣れです」


「慣れか」


納得はしてないが理解しようと勉めようと思っているであろうユイ。

心の声が駄々漏れである。


「で、──突然呼び出して何の用ですか?」


姿が大人に戻る。


「言っときますけど、私はフリーダンの指示にしか従わないですよ」


懐からアンノーンが封筒を取り出し、手渡す。


「何ですか?これ」


「フリーダンから」


「………ふーん」


封筒を開き、中の手紙に目を通す。

そして、傍らに置いた。


「なるほど。大体の事情はわかりました」


「では、協力して──」


「──嫌です」


「え」


予想外な返答でアンノーンと声がハモった。


アーリャが紅茶を一口飲み、音を立てて置いた。

そして、こちらを睨む。なんだ、雰囲気が変わったぞ。


「なんで、私が、こんな、危険な仕事、ただで、しないと、いけないんですか!?」


バンバンと机を叩きながら一語一句強調する。

それをアンノーンが慌てたように「ちょ…音が…」と止めようとしている。


「大丈夫ですよ、音響魔法で結界張ってるから。てかさぁ。1つ良い?あんたよ、あんた」


人差し指がこちらを向く。


「オレですか?」


「そう。あんた」


なんだろうか。


「今期勇者のあんた。ねぇ、聞きたいんだけど、あんたはさぁ、なんで勇者やってんの?」


「へ?」


「こんな危険な仕事、報酬はなに?戦うのが趣味なの?それとも正義の味方ってやつ?」


「いや、そういう訳では」


「さてはドエム」


「違う!!!」


それだけは違う。


鼻で笑うアーリャ。


「流されて、ここまで来たの?」


ドキリとした。

半分、当たっている。


「明確な意思もなく、言われるままに戦って、みんなから頼られて、剣を持って。切って。血を浴びて。そして、また死地にいく。そんな人生で良いの?多分次の戦いで死ぬよ?あんた。私はそんな人生ごめんですね。何が楽しくて、死ににいくような真似。大体、あんた勇者って呼ばれて良い気になってるだけで、守れる力があるっていうの?守りきれるの?大切な奴、守れましたぁ??」


「…………いえ」


脳裏に甦るのは、確かに赤色の無惨な光景だけだった。

守れたのも、あったと思う。

だが、本当に守りたいものが守れたかと言われれば……。


だけど。


オレは、なにも考えずにただ流されていたわけではない。

考え、もがいて、流れに逆らい手足を動かした。


もう一度考える。


この世界の風景が好きだ。この世界の人達が好きだ。生き方が、考えが、人との繋がりが、自然との関わりが、全て好きだ。


守りたい。


ふ、と、魔界の景色も甦った。

エルファラの記憶の中にある景色はいつも灰色であったけど、間違いなくそこはエルファラの故郷で、好きな場所だった。

アンノーンを見る。

この人も、きっと魔界で色々あったのだろう。好きなものもあったのだろう。だから、止めようと走り回ったのだ。


「…でも、だからといって足を止めるわけにはいきません。オレは、確かに守りたいものが守れませんでした。でも、だからといって、彼らが守りたかったものまで、放り投げるわけにはいかないんです!!彼らは、オレに意思を託してくれたんです!!それを、無下にするわけにはいけない!!オレは、この戦争を止めたいんです!!!」


『……ライハ…』


ネコの尻尾が腕を撫でる。慰めるように。

冷めた目でこちらを見ていたアーリャが、そう、と一言。


ゆっくり立ち上がる。


「貴方の戦う理由はわかりました。ごめんなさいね、一応目的はあったのね」


近くの布に包まれたモノを撫でる。


「…………あんたの仕えていた主人は、良い主人だったのですね…、なるほど………」


「?」


「分かったわ。でも、まだ私が納得するには少し足りない。表に出なさい」


手に持っていた物をポケットに仕舞い、こちらを見下ろした。


「意思があっても、作戦を遂行できる力がなければ話になら無いから、ちょっとテストをします。それに無事、合格できれば、私は貴女たちの作戦に喜んで参加しましょう」





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