第499話 隠密.7
「目隠し身隠し神隠し、狸の葉っぱで身を作り、狐に摘ままれ目を無くす。ほーいほーい。ほーいほーい。カラスよカラスよもの話せ。来や《スリカエ人》」
部屋の中から持って、床に敷いた布団の中心が人ほどに膨らむ。それがもぞりと動いて、布団から何かが這い出てきた。
タゴスの姿を模した何かだった。
「なにこれ」
思わず訊ねた。
「身代わり人形。一種の幻覚だ。一定以上の衝撃を与えられたり、疑われると解けてしまうけど、それまでは上手く誤魔化してくれる。まさかこんなのが今でも役に立つとは思わなかったけど」
それにタゴスが苦笑する。
「本来は子供が夜こっそり家を抜け出すときに使うイタズラで、親は違和感があればすぐに疑うからすぐにバレて怒られる。だけど、まさか見張りを人形と刷り代わるとは思わないだろう」
スリカエ人形に手を翳す。
「約束事、一、見張りをしている振りをしろ。二、俺達の邪魔をするな。三、ある程度なら他人の言うことを聞け。四、扉を開けようとするのを阻止しろ。五、扉の向こうに入ってはならない。六、布団は隠せ。七、絶体絶命の状況になった場合、自らに火を付けて心中しろ。以上。同意するかしないか手を上げ主張しろ」
スリカエ人形が手を上げる。
『火がない場合は?』
喋った。と、ラビは少し驚く。
「その場合は仕方がない。包み込んで窒息なり何なり、ダメージを与えられればいい。ダメなら諦めて良い」
『わかった。それ以外は了解した。以上です』
布団が消え、スリカエ人形が先程のタゴスと全く同じように見張りを始めた。
その姿はまやかしとは思えないほど精巧で、本物と遜色がない。
その様子を満足そうに眺めるタゴスを、双子が呆れた顔で見詰めていた。
「クソガキだったのよ」
「クソガキだったのね」
「うるさい。使えればいいんだよ」
「それは同意する。さて、問題はここからだけど。この城に張られている結界を解きたいんだが、どうすれば良い?」
訊ねれば双子はヤンを頭に乗せ、お互いに聞こえない程の声量で少し黙っていると、ウコヨが頷いた。
「ちょっと手間取るけど、媒体を破壊していけば解けると思うよ。ついでにめんどくさいけど、この国に張られているのと、あと首都に張られている頑強な結界と罠を何とかしよう。そうすれば、人間はここに攻撃できる」
「ていうか、罠何とかしないとヤバいね」
「罠?」
罠とはなんだ。
そこで、タゴス含め三人がこちらを向き、あれ?と声を上げる。
「お前、分からないのか?」
「何が?」
「いや、問題ないなら良いんだけど。普通の人間ならこの城内の魔力が毒になって結構堪えるはずだが。まぁいいか」
そこで、アーリャがここは辛いといっていたのを思い出した。俺は分からないが、アーリャがそう言うくらいだ。相当きついのだろう。
「実は俺の……知人が城の中で逃げ回っているんだけど」
「そいつはヤバいぞ!早く助けないと!普通なら数分と持たずに動けなくなる程だ!」
そんなにか。
双子も衝撃的な表情をしている。正直そこまでとは思ってなかったが。なら、急がないと。
「ヤン!こっから近い触媒は何処!?」
「君、えーと」
「ラビです」
「ラビ、手を貸して!魔力をあげるから私達を全力で守ってね!良い?」
問答無用に手を取られ、魔力を流される。
途端に体が魔力で満たされる。とんでもない濃度の魔力が、こんな短時間で流し込めるなんて。しかも本人は特に問題が無さそうだ。一体どれ程の魔力を持っているんだ。
「ラビ、剣はどっちのが良い?」
短剣と長剣。ラビは迷わず長剣を指差した。本来は双剣だが、どちらかしかないのならまだ使える長剣が良い。
「よし。一言だけ忠告しとくぞ。ここの兵は皆寄生魔に憑かれ、戦闘能力が増加している。できるなら、戦わずに突っ切れれば一番良いが、ダメなら、迷わず首を跳ねろ。そうすれば停止する。……いや、二言だ。悪魔に会えば間違いなく死ぬ。だから、きついと思うがお前の魔法を多用するが大丈夫か?」
「大丈夫だが、俺の魔法の種類知ってるのか?」
ニヤリとタゴスが笑う。
「光彩魔法。しかも高度のだ。頼りにしてるぜ、元遊撃隊副隊長さん」
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