第498話 隠密.6

「旅芸団って、盗賊の集団でしたっけ?」


「違います。芸を売ってる集団です。たまに便利屋」


難なく鍵を開けると、タゴスがツッコミを入れる。

最も俺が鍵開け出来るのは、芸に使う道具修理で得た技だけども。


内部からカチリと音がして、ノブの抵抗が消え、異音がないのを確かめると扉を開いた。


「!」


中にいたのは二人の女性だった。

双子だろうか、顔がよくにているが、話せないようにと口枷をされているのが痛ましい。手錠の方も、完全に指すら使えないようにされている。


二人がこちらを見て、驚きの表情をした。


「魔法封じの拘束具です。あちらも魔方陣等は使ってません」


「わかった」


どんな理由があれど、レディを拘束するなんて許せない。

すぐさま駆け寄り拘束具を取り外した。


これが隷属の首輪とかだったら、つけたやつを一万発殴っていたところだ。勿論拘束している時点でボコ殴りは決定思考である。


「ぷは。ありがとう!助かりましたよ!」

「もう終わったかと思いましたね」


二人、ウコヨとサコネという女性は、はーやれやれと言った感じで額の汗を拭う動作をした。


「どこかお怪我などはされてませんか?」


「大丈夫。ね?」

「うん。ひとまず」


拘束されていた以外は特に何もされていなかったようで、二人はほっと胸を撫で下ろしていた。


「お二人さん。喜んでいるところ悪いけど、事情を説明して貰っても?」


そうしていると、タゴスが部屋の外から声を掛けた。

タゴスを見て、双子は同時にタゴスを指差す。


「タゴス!生きてた」

「贄にされてたと思ったよ!」


「一応所有物だぞ、俺。勝手にされるかよ。腑に落ちないが不幸中の幸いだな」


『主ー!!!主ー!!!』


「ヤンー!!」


それぞれが感動の再開を果たし、少し落ち着いてきた頃に説明をしてくれた。

双子はウロという魔術師の弟子で、この国で勇者の能力付加の仕事をしていた。勿論、ほんの少しだけこの国の召喚システムに引っ掛かるところがあったが、なにぶん二人はまだ未熟なため、そして師匠に直々に言い渡された仕事だった為に口を出せずにいたとのこと。


その時、たまたまうまく事が運ばなかった勇者が現れた。

ライハである。


「変な子だったよ。魔法カスだったし」

「でも良い子だったね、チョコレートくれたし」

「うん。マンガもよ」

「弟みたいな感じだった」


そんなとき、ポンコツ勇者だからと処分の話が出た。名乗りを上げたのはエデン卿。何を行動原理にしているのか読めない相手だったが、使い魔で作戦を盗み聞きして、このまま殺されるならばと、ウロにとある作戦を提案した。


──ライハをこの国から逃がす。


ホールデン以外の国の偵察の為。と理由をつけて。

ある意味賭けではあったが、帰郷の呪いは着けてあったし、タゴスに場所を特定する武器を渡す命令をした。


「でもあいつって、平和な所から来たって行ってたから、俺が武器を渡したんだ。少しずつ魔力を溜め込むから、魔法を撃てないライハが本当にヤバいときになんとかなるように。まぁ、言われた武器ではなかったがな!」


「おかげであんたライハを見失って折檻されたのに、嬉しそうだったよ。きもい」


「ひどい」


完全に見失ったが、ほぼ同時にホールデンが大混乱に陥ったので意識が逸れ。たまたまコノンが見付けてしまっても大した手出しができなかった。

せいぜい指名手配のみ。


そんな中、突然見知らぬ二人組が現れた。




──『ウローダス、仕事です』




そこからだ。ウロがおかしくなったのは。


まず王を手に掛け、国全体に結界を張り巡らせた。人々の姿が消え始め、勇者の行動が変わっていった。

何が起こったのか分からずウロに問い掛けても、ウロは無反応。それどころか性格が真逆になったかのように冷たくなった。


兵士達は次々に寄生魔を入れる贄にされ、禁忌魔法が復活。


気がつけば、ここは悪魔の国となっていた。


「使い魔も隠してたヤン以外皆解除された。風の勇者はどんどん改造されて、もう跡形もないよ」

「大地のも、可哀想だけどもう無理だね。でも諦めずに偵察して、私達は更なる計画を知ってしまった」

「妨害できるならしたかったけど、エデン卿を逃がす位しか出来なかった。仕込んどいた情報がちゃんと伝わったかわからないけど」


だが、ウロにその事がバレ、魔法封じを施され、結界の柱のひとつにされてしまった。

という訳だ。


「私達は師匠を元に戻したい」

「師匠は私達にとって親と同じだから」


ウロを助けてくれるのなら協力をしてくれる。

なるほど、と、頷いた。


聞くとそのウロは相当な魔術師のようだ。

洗脳されているのか確かではないが、元に戻しさえすればきっと力になってくれると思う。


「わかった。手伝おう。その代わり、君たちも俺に協力してくれませんか?」


二人は互いに顔を見合わせ、笑う。


「ありがとう!」

「これで仲間ね!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る