第487話 裏の者.10

「ネコお留守番なの!!?あんなに頑張ったのに!!!?」


オレが行く準備をしている足元で、同じく毛繕いで準備をしていたネコに向かって、ニックが無慈悲に「行くのはこいつだけ」と言ったのだ。


「ネコ最近いつもお留守番…」


「……お土産は持ってこられないけど、無事に剣を回収できたらお肉パーティーするから許して」


『……、なんか解せないけど許す』


不満そうな顔のままだが、理解してくれた。


前はお肉あげると言っただけですぐ納得したのに、成長したんだなぁ。


「俺達は基本外から手助けはできない。出来るのはしるべになってやることくらいだ。お前は自分の事に集中しろ。こっちを気にするな……そして一番大事なことだが」


ニックが肩に手を置いた。


「絶対に、自分を信じろ。自分を殺すな。分かったな」


「わかった」


よくわからないけれども!!










大きく息を吸い、吐く。


武器は魔方陣札も含め全て置いてきた。

胸をガードする鎧も、靴すら脱ぐ。


呑まれる恐怖を押し込め、何も感じないように努める。


(大丈夫、オレは自分の剣を取りに行くだけだ)


恐れれば、すぐに呑まれる。


一歩足を進める。黒いものがこちらを向き、様子を窺う。

もう一歩、もう一歩と、距離を縮めていき、遂にラインを越えた。



まるで黒い手に鷲掴みにされるようだ。



視界一杯に黒が広がり、全身に衝撃が走ったと思えば、全ての感覚が押し潰された。

















さて、仕事だ。


ライハが潜る準備を進める中、俺は他の仲間に声を掛けていた。内容は、ライハが潜った際に出てくるであろう厄介な敵のことである。


名を影法師。


呪い解除の際に出てくる余波みたいなもので、実は今回の選別メンバーは、勿論先程のゴーレムも厄介だが(結界張ってないと、寄生主拐って逃げる場合があるものもいる)、この影法師に対抗すべく結成したといってもいい。


だが、それはライハには言わない。何故なら、あいつはこれから普通の戦闘よりもキツイ戦いが待っている。自分の事に精一杯になってもらわないと困る為、敢えて言わないでおいたし、口止めもした。


「本当に大丈夫なのか?本人に影響とかは…」


作戦を聞かされたアウソが眉をひそめる。

このパーティーはこういう呪いと接触する機会が少ないがゆえか警戒されている。祝福や魔法、悪魔関連ではすんなり受け入れられるが、こればかりは仕方がない事だと思う。


なんせ、敵が敵だ。


あちらでナリータと話すカリアはあっさりと受け入れていたが、恐らく昔、呪い関係でも体験したのだろう。こういうとき、経験がモノを言う。キリコはカリアが説得すると言っていたから問題ないとして、こいつはちょっとめんどくさい。

何せライハと初めからいた友達のようなものだ。


頭で納得はできても心が納得できていない。


「無い、とは言い切れない。だが、ここで俺達が踏ん張らねーとアイツは戻って来られないし、最悪成り代わられる。魔力に繋がりがあるから、例外的に暴走しててもなんとか解除の取っ掛かりがあるんだ。姿形があれでも、敵だ。全力でやらなければ殺られるだけ。それはハンターの世界なら“当たり前の考え”だろ」


「…」


「それに、お前らのやってる儀式と比べれば大したことじゃない」


「!、……おまえ」


「準備が出来たみたいだ。ほら、行くぞ。さっさと槍を持って覚悟を決めろ」













黒いものがライハを呑み込んだ。

ブクブクと激しく泡立ち縮小すると、黒いものに突き刺さった剣の傍らに人影が一つ。


見慣れた姿。全体に影がついてるが、間違いなくそれは知っている姿。だが、それは、本人ではない。影法師だ。


隣でネコが驚いている。あの後説明をしたが、聞くのと見るのとはやはり違う。今回はネコの助けはない。自分自身を攻撃する事になるから、攻撃出来ないのだ。


影法師が傍らの剣を手に取り、引き抜いた。

筈だった。剣は刺さったままだが、影法師が触れたところがぶれて、剣の中から剣の影を引き抜いたのだ。


「来るぞ、手加減するなよ」


杖を握り締め、前を向くと、すぐ目の前に影法師が迫っており、剣が首へと放たれていた。

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