第476話 絶望の淵で.6
その様子をどうしようかと眺めていた人達に気が付いた。いつの間にいたんだろう。
その中のノルベルトとフリルの女性が慌てたようにレーニォを追っていって、残された人がこちらに来た。
「ごめんなさい、ライハ。止めたんだけど聞かなくて」
「あ」
カミーユだった。化粧のせいか、別人のように見えていたから、カミーユと分かったときに驚いた。
化粧って怖い。
「お、久しぶりです。……その」
カミーユが首を振った。オレが何を言おうとしたのか察したのかわからないが、悲しそうな顔をした。
「今回の事は貴方のせいではない。だから、貴方が自身を責めて壊れなくても良いの。大事なのは、これからどうするか、だから。貴方がどんな道を行くとしても、私は応援するからね。……さてと」
ふぅ、と、ため息を吐きながら立ち上がった。
「レーニォを探しに行かなきゃ。ナンパ仲間のラビを殺られて私も凄く悔しいし、ムカつくから、レーニォの意見には大賛成。もし、貴方も乗るなら、首都のムーボーンの宿屋に来て、歓迎するわ」
じゃあねと、カミーユが手を振り部屋を出ていった。その後ろで「あうあう」と困惑していた小さい尻尾つきの女の子が左拳を右掌で包みこちらに一礼するとカミーユ達を追っていく。
嵐が去っていったみたいだった。
『ライハ、大丈夫…?』
ネコが恐る恐ると顔を覗き込んできた。
手が動きネコを撫でた。随分長くネコの声を聞いていない気分だった。
「大丈夫か?なんか止めて良いか分からんかったから割って入れんかったけど、どっか怪我とかは?」
「ない。大丈夫、……」
そこでようやく、ネコの言葉を理解することができ、アウソとカリアが居ることに気が付いた。幻じゃなかったのか。
「カリアさん」
「ん?どうした?」
思い出した。あの時、カリアが助けてくれたから、オレは生きているのだ。助けて貰った命を、オレは易々と投げ出すところだったのだ。
座り直し、深く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございました」
そんなオレを見てカリアが驚いた顔をしていたが、次いで、ふっ、と口元に笑みを浮かべた。
「弟子を守るのは師匠の役目よ。本当は心も救いたかったけど、それは先越されちゃったし」
随分心配を掛けた。
「ライハ!俺は!?俺の事分かる!?」
「え?アウソだろ?」
何を言ってるのか。
「うわー!!やっとちゃんとした名前出てきたー!!正気に戻ってるー!!!」
思い切り抱き付かれた。なんなんだ!?暑苦しい!!
引き剥がそうとしていると、カリアが笑っていた。
「あんたアウソが話し掛けてもずっと違う名前で呼んでたんよ。いやぁ、良かった良かった」
そうなのか。
聞くところによると、毎回違う名前が出てたとの事。ただしキリコとカリアの名前はすぐに出てきてたので、アウソはしばらく本気で凹んでいたらしい。
レーニォに引き摺られてきた巡回をしていた兵隊に事情を話して、レーニォの起こしたこの騒動はなんとかして誤魔化して貰うことにした。
その内、話をききつけたキリコが戻ってきて抱き付きという名のタックルをされたり、何故かグレイダンも居て、しかもいつの間にかキリコと仮ではあるが婚約してたりと色々混乱があったが、ぽつりぽつりとお互いの事を話始めた。
イリオナで別れた後、どんな出会いがあって、どんなことがあって、どんな別れがあったのか。長い長い話だったが、話終えてお互い辛いことがあったのだと分かった。
辛い想いをしているのはオレだけではない。
でも、だからといって、我慢しろとは言われなかった。
悲しいものは悲しい。
我慢できなければ我慢するなと言われ、その日、本気で泣いた。
翌朝、昨日思い切り泣いたお陰か心なしか少しスッキリした。
足を縛り付けていた楔となっていた泥々としたものが薄まり、やらなければいけないという意志が芽生え始めていた。
そして、ようやく、本当にようやくネコの棘に気が付いた。
「…抜いていい?それ」
『なんか抜けないの、これ。気持ち悪い』
試しに抜こうとしたが、ネコが痛いと尻尾で殴るので断念した。
助けにいけなかった原因で、吹っ飛ばされた後、打ち込まれたコイツが地面に根を張って抜けなくなってたとの事。
なんで戻ってこないのか不思議だったが、そういう事だったのか。
今んところ魔力に異常もないし、ニックに出会い次第何とかしてもらおう。
「ライハ元隊長、少し良いですか?」
トントンと扉がノックされ開けると、伝令部隊の人が扉の前に立っていた。
「エドワード様がお呼びです」
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