第474話 絶望の淵で.4

「…………、すみません。これは我々にはとても……」


「そう。まぁ、こうなる覚悟で飛び込んだからね、まだ腕があるだけマシよ」


「ギリスの魔術師とかでしたら、もしかしたら…」


「ありがとう。後で訪ねてみる」


包帯を巻き終え、ここの野営地の軍医にお礼を言うと、何だか向こうの方が騒がしい。


ここはホールデンの前線に近い町に作られた野営地だ。といっても本当の前線付近で機能していた野営地は丸ごと焼けたので、二番目に近い野営地。


町を基礎にしている分頑強に作られていて、もちろん町の中というより、外壁を利用して魔術師達が新たに開発した土石魔方陣によって作られたものだ。


灰色で飾り気も何もないが、頑丈で、屋上には外壁に登る階段と、対悪魔兵器が並べられている。


こんな辺境な地にやって来るのは軍関係者ばかりで、一般人が訪ねてくること自体がこんなんな筈だが、新聞社はただでさえ高額なのに戦時中で更に値段が高騰している筈の飛鳥馬を手に入れ、押し掛けてくる。


それだけならまだ良いが、今回の被害者の関係者まで相乗りさせてくるから質が悪い。

そんなことしている場合じゃないのに、そんな苛立ち混じりの声があちこちから聞こえてくる。


怒りの矛先が悪魔ではなく一般人に向かう可能性もあるのに、彼らはそこまで考えてやっているのだろうか。


しかし、今はキリコとグレイダン率いる竜が睨みを効かせているから大分静かになった。勿論、竜を使って我々を威嚇していると叫ぶやつらもいるが、そんな頭のずれた連中をいちいち相手にしていたらキリがない。優先順位は悪魔戦だ。と、そんな感じで、ライハの上司というエドワードに交渉してみると、あっさりと承諾。今朝ようやく軍関係者という名札を貰ったので、ライハの様子を見つつ次いでに軍医にて貰っていたのだが。


「カリアさん!!大変さ!!レーニォさんが突撃してきた!!!」


「え」


扉を開けて飛び込んできたアウソの言葉を聞いて、ちょっと血の気が引いた。


ちょっとやそっとの事では動じなくなったカリアだが、今回ばかりは流石に不味い。


ラビの事は聞いた。聞いてはいたが、実際に会ってないから感覚が少し薄かったが、もしカリアの目の前で、弟子の誰かが同じようにされたら、同じようになってしまうかもしれないとライハに同情していた。が。チクセであんなにも血の気が多く、兄弟愛の強い兄だ。下手したらライハを……って考えが少しよぎった。


今朝のライハも魂が抜けたみたいになってしまっていて、ネコも落ち込み腹の刺も刺さっていることすら忘れたようにくっついていた。

食事が摂れなくなってて、ネコが緊急処置で魔力融合で持たせているが、このままにしておけばどうにかなってしまう。その前に何とかしなければと思っていた。

きっと今何をいっても言葉が耳に入ってないし(話し掛けても反応がおかしい)、ついさっきみんなで相談してたのに。


「アウソ案内!!」


「こっちこっち!!!」


アウソの案内の元、急いでライハの部屋に行けば、ノルベルト達が困惑した表情で部屋を覗き込んでいた。


「ライハは?」


「あ、えーと…」


目が泳ぐノルベルト。

見た方が早いと言うことなのだろう。道を開けた。


なんだ?と思いながら部屋を見ると、レーニォが壁に拳を叩き付け、盛大なヒビを入れている最中だった。

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