第466話 虚空を見る.16

「どけえええええ!!!!」


『やーだよ!』


腕を焼く感覚、ジリジリと痛むのを無視して、氷を放つ。力は拮抗していて、傷付ける程の威力が出せない。

氷は溶かされ、雷は効いているのか不明。

剣でもって傷を負わせても、次の瞬間には炎に包まれ、元に戻っている。


こいつ、子供の姿しているのに強い。


背丈もオレとそれほど変わらないのは、長い鳥の足のせいだ。


それが鋭い蹴りを放ち、不意打ちで炎を放ってくる。焼かれた部位は再生するが、それでも目に入らないようにしなければならない。オレもそうだけど、隙あらば目を狙ってくる。

再生するとしても、目を潰せば動きを止められるから。


だが、オレは動きを止められるわけにはいかない。


揺らぐ炎の向こうで、仲間が危機に瀕していた。


初めにガスがやられた。

胴を袈裟懸けに裂かれ、血が噴き出して倒れるのを見た。

他の隊員がすぐさま治療を施そうとするが、傷が深く、塞がる様子がない。


『どうした?動きがぎこちないな、小僧。このフォルテ、欠伸が出るぞ』


『!?』


ググンとまたグリフォンの体が大きくなった。いや、正確にはグリフォンの体を覆う膜が巨大化し、その膜は中のグリフォンの形をそのまま写している。

動きも連動し、像並みの巨体になったグリフォンのフォルテが腕を振り上げ、地面と振り下ろした。


地面が揺れ、ネコが体制を崩した瞬間、フォルテの爪が襲いかかった。


── ドゴオオオオン…!!!!


結界を展開したのにも関わらず、ネコは吹っ飛ばされた。


『ちっ。あいつ、反撃してきよった』


グリフォンが腕を舐める。その腕には深い爪痕が残されていた。


「…っ!!!」


そのすぐ後ろ、フォルテの死角からフィランダーが近付き襲い掛かる。ガスの魔剣に、爆発の魔方陣札を持って。


「ガスの仇だ!!!」


「フィランダー!!馬鹿!止めろ!!!」


グリフォンとの間に結界を構築していたラビが叫ぶ。

だが、フィランダーの耳には届いていない。


雄叫びをあげて、突撃していく。爆発魔方陣札を押し付け発動させる。ドン!と爆発が起こるが、フォルテは構わず腕の傷を舐めている。


「うおおおおおおおお!!!!」


膜が爆発で揺らいだ箇所目掛けて魔剣を突き刺した。アレで動きを鈍らそうとしたのだろう。だが、刃が本体に届くことはなかった。


「あ…」


フィランダーのお腹から下が消えた。


ラビのすぐ横を、臓物を撒き散らせながら飛翔し、遥か後ろで転がる音がした。


「…ちくしょ…う………」


目に涙を溜め、フィランダーの体が地面へと落ちた。


その瞬間、何かが崩れた音がした。


「うわああああああ!!!!!」

「この化け物がああああ!!!!」

「死ねええええ!!!!」


雄叫びをあげて隊員達が次々に剣を、魔方陣札を手に突撃していった。


それを見てフォルテが器用に笑った。


「やめろ!!!戻れええ!!!」


嫌な予感がして声を張り上げたが、声は届かない。


ラビが止めようとするも、その腕を振り払い駆けていく。




それはまさに蹂躙だった。




駿馬が潰されている。

隊員達が引き裂かれている。

体の一部が地へと落ち、隊員達の口から溢れるのは憎悪の雄叫び。


やめろ。


やめろ。



やめてくれ…!!!





『横見しない!』


業火に巻かれる。それでも、目を背けられなかった。

早く助けなければと、必死に剣を振るうが、このサラドラはオレの足止めが目的のようで、近付くことすらかなわない。


焦る。焦る。焦る。

ネコはまだ戻って来ないのか?

どこまで飛ばされたんだ?


ああ、やめろ。


積み重なる隊員の躯を踏み締め、フォルテが最後の一人へと襲い掛かった。


「ラビッッ!!!」

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