第453話 虚空を見る.3

乱戦。まさにその言葉がお似合いだろう。


巨大な団子虫が押し寄せ、その後ろに控えていた変異体が雪崩れ込んできた。辛うじて防衛線は守りきったものの、事前に練った作戦は全て消し飛んだ。


削り取り作戦で押し戻されたその腹いせからか、今までにないほどの戦力の投入。今までいなかった大型の魔物も惜しみ無く送り込まれ、一言で言うなら地獄と化していた。


ここを抜かされるわけにはいかない防衛軍と、オレ達を潰したい悪魔のせめぎ合い。全勢力をもってのぶつかり合いとなった。


「しぬゥゥゥゥ…」

「ロドニフ生きてるか!!?」

「火炎攻撃来ます!!!」


もはや作戦も陣形も関係なく見付けた敵を凪ぎ払っていく。

何となくだが、カリアさんに修行と称して森で魔物を交えた本気の鬼ごっこを思い出した。


「隊長!!!マルコフ隊長の部隊が!!!」


あれは地獄だったけど、今になって思えば良い経験になったと感謝してます。だってまだ敵を判別できているから。乱戦になると敵味方が判別できなくなる時がある。


オレも魔物との乱戦中にキリコに間違えて攻撃放ってしこたま殴られた時があった。


懐かしいな。あ、思い出すと鳩尾痛が。


「救出するぞ!!先にネコ頼む!!」


『任せて!!』


ネコがチーター状に変化して、するすると敵の間をすり抜けていく。


そして。


──ズドオオオオオオオオンンンッッ!!!!


マルコフ隊長の部隊がいると思わしき場所から土ぼこりと、一緒に吹き飛ばされた魔物と悪魔の姿。ネコの尻尾は刃物のように鋭く薄くすることもできるし、かと思えばハンマーのように重く硬くすることも可能だ。


あれはおそらくハンマーテール(攻撃名/オレ命名)だろう。


正直、ネコだけで何とかなるとは思うが、負傷者が多数居るだろうから回復札をばら蒔いてこなきゃならない。


その為には目の前にいるこの魑魅魍魎達を凪ぎ払いながら進まなきゃならない訳で、今になって、駿馬の防御力を上げる前に、アーノルドに頼んで背中から翼を生えさせてペガサス隊でも作りゃ良かったかなと少し後悔をしていたり。


「空飛ぶペガサスに乗って突撃する遊撃隊って、かっこよくない?」


「ライハ、現実逃避するなら後でしてくれ、死ぬぞ」


「はいごめんなさい」


実際のところ、この駿馬装備のおかげでオレ達がまだ生き残っているっていうのも否めない。


乱戦になった時点で、いくつもの部隊が駿馬を殺られ、囲まれて殲滅させられかけているのを見ている。


「マルコフ隊長無事ですか!?」


「遊撃隊!!隊長が…!」


駆け付けると、マルコフ隊長はまだギリギリ生きていた。ただ出血量が多くて戦闘不能ではあるが。急いで隊員が神聖魔法と回復札を張り付ける。


マルコフの部隊はもう無理だな。三割しか残っていない。


「後は任せて下がっていてください。すぐに衛生兵を呼びますから」


単管笛を吹くと、近くに突然人が現れた。


光彩魔法で隠れて活動していた衛生兵だ。戦場で攻撃の対象になりにくいように出来るだけ魔力を押さえ、気配遮断に勤めながら怪我人を回収している。戦場であっちこっちで鳴ってる不思議な音は衛生兵の出してる会話の音だ。


戦闘能力は無いが、気配遮断と撤退に特化した奴等だ。


「お願いします!」


「畏まりました」


言い終えると同時にマルコフ隊長と、その隊員達が一斉に消えた。消える直前、悔しそうな顔が見えた。


『おわったー!?』


「ありがとう!!」


遠くでネコが牽制をしてくれていた。おかげで襲われることなく撤退作業が済んだ。


にしても、このままじゃ埒が明かない。


隙をみて団子虫を止めるが、まだしばらくすると復活して歩き始める。既に防衛線のすぐ近くまで迫ってこられてしまっている。


タフすぎる。よく東側はこんなのと対峙して未だに全滅していないなと感心した。


「ラビ、オレあの虫ちゃんと止めてくるわ。指揮任せて良いか?」


「良いが、無理は絶対にすんなよ」


「ありがとう」


部下の方を向く。


「これより、指揮権をラヴィーノへと渡す!!出来るだけ狩って狩って狩りまくって、他の部隊を生き残らせろ!!良いか?他の部隊が脚を引っ張っているとか思うんじゃねーぞ!!これは持久戦だ!!持久戦を制覇するために出来るだけ負傷した人材を早く回収して復帰させるんだ!!オレの言ってることは完全に鬼畜だけど、オレ達が勝利するために必要なことを理解しておけ!!オレは一旦離脱してあのデカブツどもを潰してくる!!オレが戻るまでに全滅してたらただじゃおかねーからな、覚悟しとけよ!!」


「「「 了解!!! 」」」


笑顔で敬礼する部下に敬礼を返し、ネコを回収しに向かう。


『何処行くの!?』


途中で無事回収したネコが、オレだけなのに首を捻った。


「あの厄介な虫を完全に停止させる。ネコ、一緒にやるか?それとも勝負するか?」


なんともなしにそう訊ねると、目をキラキラさせた。


『勝負する!!どれだけ倒せるか勝負!!』


「よっし!負けないぞ!!」


魔力を解放して、反動で部下にも被害がいく為に使えなかった剣に魔力を纏わせて奮った。

モーセの如くオレの周りで割れる魔物の海。なんと見通しのよい。


『お先にー!』


「あ!狡い!」


羽を生やしてネコが先に行ってしまった。


「灰馬急げ!!」


出遅れたが、負けるものか。

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