第446話 抉り取り作戦.2
さて、我々に課せられた命令だが。
「なんつーかさ、強行にも程がある」
『え、今さら?』
前方を睨み付けつつそう呟くとネコが驚きの声をあげた。
「でも、やらないといけないからな。命を大事にしつつも、作戦を成功させないと。エドワードさんの言う通り、オレ達遊撃隊は道を切り開くための剣にならねーとさ」
手を頭に置く。今回は今まで以上の戦いになりそうだから、防御面に力を入れた。身軽なままだと攻撃力は増すが、今回は特攻で、敵の奥深くへと潜り込んでいかねばならない。
命を大事にを守るためなら、今回ばかりは嫌いな鎧も身に付けよう。
最もこれは普通のではなく、ギリスから横流しにしてもらった特製品だから重くはないのが幸いだ。機動力が落ちない。
「それにしてもどういう皮肉だよって」
この兜には角がある。
野を掛け、津波のように行進し敵を蹴散らしていく牛の願掛けらしいのだが、立派な牛の角が生えている。脳裏に浮かぶのは、本物の角が生えた時の惨事を思い出し、苦笑した。
「あの時は角のせいで死にかけたのに、今は角兜を被って人類の存亡を掛けた戦いに行く。所変わればって感じか」
『?』
ネコが分かんないと首を捻った。
そんなネコの頭を撫でやり、フェイスカバーを下ろした。
『!』
風に乗って、何かの音が響いてくる。それは風の唸り声に似ていて、その音が鳴った瞬間に、眼前の人間達が動き始めた。
『鐘を鳴らせェ!!!』
── ガァーーーン!!!ガァーーーン!!!ガァーーーン!!!
遥か上空に展開された魔方陣から開戦の音が鳴る。
各々凶器を携え、駆けた。津波のように押し寄せてくる人間達が滑稽で笑えてくる。似た形の体をしていながらなんと脆いものか。爪は丸く、牙は弱く、肌は柔い。魔力を持たぬ者など、我々にしてみればただのおやつだ。
狩るのも苦労を掛けずに、軽くつまめる。
魔族、リーデロ・デーンは笑った。
こんなにも楽な仕事はない。この大陸はあと半年もすれば魔族の手に落ちる。
大陸の南西、南東、北西の地は抵抗が激しくて奪い返されたが何て事はない。全ては計画通りだ。その証しに、この大陸の腹を食い破り、見事人間どもを東西へと分断することができている。
人間どもは弱い。
移動速度も無く、弱すぎる。
それなのになおも諦めずに挑んでくるなんぞ、カタツムリが襲い掛かるのと同義だ。
最も、リーデロが上に注意しろと言われた人間が数人いるが、見渡す限りソレらしい姿は確認できない。
『嗚呼、愚かな人間達よ。今すぐにでもその四肢をもぎ取り喰らってやるわ!!』
リーデロは騎乗した魔物の速度を更に上げ、目の前に迫った角の兜の集団へと魔法を発動をしようと手を向けた。
──が。
「旋回!!今!!」
「「「オオオオオオーーー!!!!!」」」
『!!?』
人間達が雄叫びを上げながら、何故か進行方向を大きく変えた。蛇のように乱れぬ動きで、速度を上げて右へと走っていく。
さては逃げたか。
『はははははは!!!!見ろ!!!人間達が我々に恐れをなして逃げていくぞ!!!』
『! リーデロ・デーン様、人間達が戻ってきました』
『何ィ?』
部下の指差す方を見てみると、逃げていった筈の人間達が戻ってきた。
『愚かなやつめ、我の言葉で激昂して戻ってきたか。いいだろう。怒り狂った奴は殺りやすい。さあ来るがよい!!!』
手の平を再び向ける。だが、またしても人間達はこちらに来ること無く、すぐ目の前を、今度は右から左へと通過していった。こちらの事などまるで見えていないかのように。
『このリーデロを 無視 だとォォ!!!?許さぬ!!!我に続けェエエ!!!』
一度ならず二度までも無視をされ、リーデロは怒り、隊を引き連れて進行方向を変え、角兜の先頭を追い掛け始めたのだった。
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