第436話 悪夢.9
何処かの建物の中、古めかしくも豪華な装飾品が置かれる廊下を歩き、扉の中に入る。
広い広場の奥、一段上がった所に椅子がある。
誰かが話し掛け、手を引く。
金色の髪、さらりと流れ微笑んでくれる。
一段一段と階段を登り、椅子に腰掛ければ、広場にいる大勢の人が深く頭を下げた。
名前を呼ばれる。
朧気な景色の中で、見慣れた顔が優しく笑っていた。
場面は変わり、女性と男性がこちらにやって来て何かを話している。真剣そうな、それでいて、なんだろう、良くない表情をしている。
顔見知りが集まり話し合いをしている。
空気は張り詰め、息が詰まりそう。
外は曇り空で、雲の隙間から見える空は赤い。
大きな鳥に似た生き物が飛んでいき、地上には黒い影が大量に何処かへと向かっている。
木々はなく、冷たい石の建物が立ち並ぶ。
自然は見当たらない。
見える範囲にある川は濁りきり、よくわからない物が浮かんで積み重なっていた。
空気は淀み、汚物の臭いがする。だけども気にはならない。生まれたときからこの臭いだ。もはや感じもしない。
建物は立派だが、それは表ばかり。裏へと行けば全く違う世界が広がっている。だけどもそこへと行くことは許されていない。
人々は紙を手に一喜一憂している。
また場面は変わる。
怒鳴り合う人達。拳を振り上げ机に叩き付けてはコップが倒れて中身が零れ、待機していた兵に取り押さえられて連行されていった。
玉座に収まる体。顔面に晒す手は小さく、剣すら持ったことがないのだろうと容易に想像が出来るほどに肌には傷ひとつついていない。
側に控える金色の誰かが慰めの言葉を紡ぐ。
困ったように眉を下げ、微笑むがその顔には疲労がみえる。
心に芽生える疑問。
外を見ながら考える。
見渡す限りの石の塔に、冷たさを感じる。
振り替えれば歴代の肖像画が並んでいた。
──代々こうやってきた。だけどももう限界だ。やるしかない。
──本当に?
握り締めた拳。
胸を張り宣言をする。驚愕を露にした見知った顔達。怒り、泣き出し、困惑する。七人。
また場面が変わり、黒く塗りつぶされた景色。ボヤける意識。勝手に話す口。意のままに動かない手足。
視界の端で微笑むのは金色の誰かではなく、男性と女性。
後ろに付き従う影が頭を垂れながら狂っていく。
時間の感覚が狂っていく。
耳に残る声が意識を溶かす。
手にあるスプーンにある液体を啜るのが恐い。けれども、気付けばいつも同じ。
人が減る。一人、また一人と消えていく。
金色の誰かはもはや知っている君ではない。そして自らも己ではない誰かになっている。
扉が開き、入ってくる人物を見て何故か安堵した。終われる。これで終わる。
鮮やかに彩られる空間に銀色が煌めき、糸が切れて伏した。辛うじて見えた彼は何故だか悲しそうな顔をしている。何かを言っているが聞こえない。
視界が回転して天井を向き、瞼を閉じられた。
体は動かない。
『 残念ですよ、エルファラ・ファシール様 ここで貴方の出番は終わりです 』
突然鮮明になった体に突き刺さったのは、根元に花の装飾のなされた剣。生きるための力を奪われているが、なす術もない。
手に持ってるのは白い箱。
『 魂は此処に閉じ込められ、二度と生まれ変わることは出来ません、さようなら、我らの愚かな王よ 』
◇◇◇
瞼を開けると、酷く視界がボヤけていた。
「……?」
擦ってみれば、頬が濡れている。
泣いていた?
いや、それよりも。
「生きてる!?痛い…!!」
勢いよく起き上がると、脇腹に凄まじい痛みと共にベッドへと体が倒れ込んだ。冷静に辺りを見渡すと、キャンプの医務室であった。
体を見下ろせば腹に包帯が巻かれていた。未だにじくじくと痛み、ガーゼには血が滲んでいる。あの状態で助かったのか。
『起きた!?やったあ!!戻ってるぅ!!!』
足元で寝ていたらしいネコがそう言いながらすりすりと頭を胸に擦り付けた。
ネコも無事で良かった。
「おおお!!!やっと本体が起きた!!良かった!!」
「!!?」
突然扉の向こうから包帯だらけのモントルドが顔を出した。
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