第425話 前線予想地へと.7
「撃て撃て撃て!!!」
口を開いて突っ込んでくるジャイアントワームを避け、一斉発射。魔方陣札から飛び出した火の玉がジャイアントワームに直撃するも効果なし。
粘液で滑っている。
ならばと電撃を飛ばすが、そっちも効果なし。
粘液が邪魔なのか?
ならば退かしてやろうと、久し振りにオレの弓を取り出して折り畳み状態から戻す。矢に爆発と旋風の簡易的な魔方陣札を巻き付け、指定の所に数字を書けばカウントダウンが始まる。
射った矢が十秒後に粘液に飲み込まれ動きを止め、カウントダウンが止まった瞬間爆風が発生し、粘液を吹き飛ばした。
ゼリー状に固まった粘液が降ってくるのを盾の魔方陣札で防御。
「おい、このゼリーなんか変だぞ」
「変?」
『………固まってない?』
ネコが気付く。
粘液がひび割れていき、石のように固まっていっていた。
「うっへぇ、これもしかしてこの粘液で獲物を固めて捕食するってやつか。キモい」
ラビが盛大に顔をしかめる。こいつヌルヌル系嫌いだもんな。タコもイカも嫌い。ついでに言えば鰻もナマコもドジョウも嫌い。マテラ人なのに。
「……………、そうかこれで捕食するのか…」
確かにジャイアントワームは肉食だ。獲物をどうやって捕まえるのかよく分かってなかったが、なるほど。気を付けよう。
「粘液には触れるな!!」
「「「了解!!」」」
粘液が剥がれた所に電撃魔方陣札で攻撃を仕掛ける。だが、効き目は薄い。元々が電気を通しにくいのか。
「水弾に変えよう」
「水弾よーい!!」
「待て待て待て待て!!」
「水弾待て!」
なので水弾に変えようとしたのだがラビからの制止。
「なに?」
「ヌルヌルに水は駄目だろ!増大する!」
「そう?」
ヌルヌル系と戦闘をあまりやったこと無いから分からないが、ラビの必死の形相で止めた。余程このヌルヌルが嫌いらしい。
『じゃあどうするの?凍らすの?』
ジャイアントワームがなかなか体当たり攻撃が当たらないオレ達に苛立って、上体を起こし、ブルブル体を震わせ始めた。すると振動で弾けた粘液が空中で固まり、結果半透明の石が雨のように降ってきた。
「なんとなく効かなさそうな気がするな。あの粘液のせいで」
頭上に張った結界からゴンゴンと音が鳴る。訓練中、ひたすら結界の強化を図ったからこのくらいの攻撃から余裕で防げるように練習したからな。しかも射撃場の結界も覚えた。
ちょっと危なそうな奴もいるけど、ギリギリ大丈夫だろう。
「ちょっとたまにはお前本気出してみろよ。ここ最近の戦闘、本当にピンチの時しか本気出さないだろう?」
「オレが全部やっちゃったら意味なくない?多分だけどオレが本気出したらあのワームの半分一瞬で消えちゃうと思うんだけど」
今のオレは最早電撃が強すぎて、感電通り越して炭化させるから。しかもエルファラの奴、オレの目を通して外の様子を見ていて、戦闘を経験値にもっと強くなれと何か企んでいる様子を感じる。何するか知らんがあまりオレの体を弄らないで欲しい。今でさえ加減が大変になっているのに。
「それにこの後で悪魔とか居たときの為に力温存しておきたいんだけど」
「ああ、そうか。ならしょうがないか」
『あ!じゃあじゃあネコがやって良い?』
今まで何やら考えていたネコがシピッと尻尾を上げた。
「やるって、本気出すってこと?」
訊ねるとネコはフフンと笑う。
『なんかネコね、ここ最近体の調子が良くて、アレ出来そうなんだよ!』
なんだアレって。
よくわからんがネコがやる気を出すのは良いことなので、たまにはネコにもやらしてあげよう。
ラビに目配せすると「まぁ良いんじゃないか」と返答が返ってきた。
石雨が止み、次の攻撃に移ろうとしているジャイアントワームの隙をついてネコが飛び出した。
『見ててよライハ!!はぁあああーーーー…』
ネコが大きく口を開ける。ビリビリとネコの体から火花が散り、ネコのリンクスティップに周りの魔力が吸収され始める。すると、ネコの口の前に白に光る玉が形成された。
………まさか。
『とおっっ!!!!』
ーーー ガオンッッ!!!!
青白い電撃が一直線に飛び出していき、ジャイアントワームの額に直撃。大きく仰け反って地面に倒れた。
『やったあああ!!できたああ!!』
跳び跳ねながら喜ぶネコ。とうとう魔法まで放つようになりやがった。ちくしょう唯一ネコに勝てていた部分だったのに、チートめ。
でもネコに罪はない。現に誉めて誉めてとやって来たので良くやったと撫で回すしかない。ネコに魔法まで抜かされないように頑張らないとなぁ、オレ。
額が弱点だったらしく、見事に伸びてたので止めを指して亀裂を塞ぎにいくと、大きく裂けた所から這い出たような大量の足跡が一直線にホールデンの方へと向かっていた。
見付けた亀裂三つともだ。今回は悪魔の姿はなかったが、次に起こるであろう戦闘はどのくらいの規模になるのか。
それでも間違いなく今まで以上の規模になるだろうことは安易に想像できたのだった。
とうとうネコさんまでもが隊長と同じ魔法を放てるようになってしまった。これはヤバい。と、隊員一同は思った。
「……俺達弱いよな…」
「…だな」
戻ってきて、フィランダーとガスが盛大に溜め息を吐きつつ話している。
「…………この中でも僕は最弱です」
「うわ!」
「ビックリさせないでください!ピノ班長!」
いつの間にか近くにいたらしいピノが左手を見つめながら深くうなだれていた。どうやらあのあと本当にじゃん拳の練習をしていて、見事に全敗したらしい。駿馬の元に戻ると、己の手を信じられないという目で見詰めていたピノをどうやって励ませば良いのかとオロオロしていた同僚達がいた。
そこまで弱いと逆に凄い才能である。
「じゃん拳なんて人生特に意味無いですよ、ピノ班長は反射神経良いじゃないですか!?そっちのが意味ありますって!」
励まそうと思うのだが、言っている間にワケわかんないことにことになっているけど、フィランダーは同じ班長として何とかせねばと言葉を探していた。
「オレなんて文字が汚すぎて魔方陣が認識してくれなかったんですよ!?」
「……それは、やばいですね」
魔方陣は正確さが求められるが文字はある程度の融通が利くようになっている。それはやはり国特有の文字の癖があるからだろう。だが、それを差し置いても認識してくれない文字の汚さはヤバい。もはや人の書く字として見られてないこと。
「最初なんて隊長が読めなくて翻訳求めてきましたからね!今は読めるようになってるけど隊長の文字の睨み付けながら、紙を逆さにしようとしたりしてるとき、俺わりとショックでした!」
「ぷふ、ちょっと見たかったですねそれ」
ようやくピノに笑顔が戻る。
「ガスとか」
「おいやめろ何言うつもり」
「この前間違ってお袋って隊長を呼ーー」
「わー!!わー!!わー!!」
慌ててガスがフィランダーの口を塞いだがちょっと遅かった。
「シンプソン先輩後で覚えてろよ」
「てな感じでみんなダメな所とかあるわけだし気にしなくて良いですよ。みんな違ってみんな良いって言うじゃないですか」
「そっか、そうですね!ありがとうございます」
ピノの元気も戻り、じゃあそろそろ部屋に戻ろうかと思ったところで、射撃場の後ろがやたらビカビカしているのに気が付いた。
何だろうと三人は目を会わせ見に行くと、なんと隊長がぶつぶつ言いながら左手で結界を多重掛けして、その結界を破ってはまた張ってを繰り返しなにやら実験をしていた。
ぶつぶつ言ってる内容は「これだけはネコに負けられん」だった。
「………俺達も練習しよう…」
「………おお」
「………ですね」
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