第426話 前線予想地へと.8

ドーヴォ。大陸中央南部に位置する武術の国。数々の武人の出身地で勇敢なもの達が多い国で、いつも活気が溢れているはずだが、人通りは少なく、街に漂うのは活気ではなくとてつもない不安感。


それは王都でも同じで、王宮の中では今まさに国の生き残りを掛けた重大な会議が開かれていた。


「残って戦うべきだろう!!」


「バカを言うな!!隣の雑魚なサーザはともかく!!ウヴラーダとハシが瞬殺されたんだぞ!!」


獣人ガラージャと我らは違う!!」


「何が違う!?形か?見た目か!?そんなもの意味はない!!力だけで言えばあいつらと張り合えるほどだった!!それがあっという間だぞ!!」


「今も見てみろ!!東の空を!!あれがここに来るのだぞ!?」


「だからこそ国民一段となって立ち向かうべきなのだ!!」


「戦えぬものもか!?」


「隠れておれば良い!!」


「食料の問題はどうする!?今はマテラの商人か何とか届けてくれているが、戦闘になればそれどころではない!すぐに餓えるもので溢れるだろう!!」


「激戦地になったルキオを見てみろ!!ほぼ更地だぞ!!あんなにも緑で溢れた地が!!この地も同じようになる可能性があるのを何故貴様らは理解ができぬ!?」


「王!!意見をお聞かせ願いたい!!」


まっぷたつに意見が分かれる。一方は残って戦う派と、もう一方は国を捨て、体勢を整えて戦う派だ。この国の王、ンゴロフ王は残って戦う派であった。それはこの国の王としてのプライドと、意地だった。国を持たない王など。それは最早王ではない。


「残って戦うべき、と私は思う。だが、相手の力も考えれば、安易に答えを出せぬ」


王の言葉に場はざわつく。

いつも率直に、皆を導く答えを出す王がどっち付かずの返答をしたからだ。

それを聞いて、ヒヒド王子が立ち上がった。


「王!!民のことを考えるなら!恥を忍んでまずは避難し、しっかりと準備を整えてから反撃に移るべきです!!国はまた立ち直れる!!それは民がいてこそだ!!民がいなければ国は建て直すどころか、本当になくなる!!国民を導く存在の王よ!!導くものが居ない王に何の意味がある!!」


「王子といえど王を侮辱するとは何事だ!!」


激昂する士官をヒヒド王子が睨み付け、だが、すぐさまその視線を王へと向けた。その瞳が語っていた。

貴方は何を取るのか、と。


しばらく王子の視線を真っ向から受け取っていたが、大きく息を吐いて立ち上がった。

確かに、王子の言葉に一理ある。


「全国民に知らせよ。一旦国を捨て、避難の準備を、と。だが、忘れるな。これは逃げではなく、戦略的撤退だと。体勢を整え次第、国を取り戻しにくる、とな」



















イリオナ近くのクレーターの縁にケンタウルス達が集まってきていた。普段は自由気ままに走り回り、時には人を襲い、時には人を助け、気紛れの象徴としていた彼らは皆包帯を巻いていた。去年の寒くなる頃に、空から凶悪な物が降ってきた。朱麗馬に匹敵する脚を持ちながらも逃げ切れずに大怪我を負い、動けなくなっているところを人間たちに助け出され、イリオナで治療を受けていた。


「…このままでは腹の虫が収まらん」


一頭のケンタウルスが言う。

松明を持つ腕にはまだ包帯が巻かれており、危うく絶たれそうになった腕にはぐるりと縫われた跡がついていた。


それに近くのケンタウルスが頷いた。


「ああ、やつらを盛大に後ろ脚で蹴り飛ばしてやりたい」


「誇り高き我らを虫けらのように翻弄するなど、あってはならんことだ」


「だが、我らの力では到底太刀打ちすることなどできぬ。そこでどうだろう?一時人と手を組んで戦うというのは?」


「人と共にか?」


鼻で笑う奴がいるが、そうだと頷く。


「今は意地を張っている場合ではない。これは人間と悪魔の戦争ではなく、こちらの世界とあちらの世界の世界だ。我らに喧嘩を売ったことを後悔させてやろう!」



















竹を割ったような甲高い音が静かな空間に響き渡った。


ーーコン。


池の中央にある岩に竹の筒の底が着き、また、しょろしょろと水が注がれ始めた。

静寂な空間。だが、そこにはいくつもの人影があった。

気配がない幽鬼のように、だが、自然に混じりきちんと存在している。


ヒラリと薄紅色の欠片が舞落ちて、池に波紋を広げた。


そこにいるのは五人。

皆池に座っているように見えるが、鳥の羽を広げた衣装はもちろん、どこも濡れる様子はない。


「ーーそろそろ、か。南との連絡も取れなくなったが、恐らく上手く逃げられただろう」


「例の子はどうした?」


「生きてはいるらしい。だが、捕まって身動きが取れないのかもしれん」


「そちのお気に入りの子は無事西の者と合流できたと」


「鬼は?」


「お主、鬼好きよの」


「好きじゃ。いつも何故うちの物じゃないのかと首を捻るほどに」


「そっちも無事よ。ヒヤリとしたが」


「時にーー」


今まで話さなかった口許を袖で隠した者が初めて口を開いた。


「彼は何処にいる?」


残る四人は視線を巡らせ、目で微笑んだ。


「ノーブルに。もうじきぶつかる」


「よし、すぐにでも動けるように準備をしておけ」



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