第423話 前線予想地へと.5

久方ぶりに再会したアウソは少し痩せていた。


「……ちょっと見ない間に痩せたね」


「ずっと海上にいたから…。何度死ぬかと思ったか」


「お疲れ。ザラキも、髭ぐらい剃ったら?何だかむさいよ」


そしてザラキも。


「ずっと空の上だったからな。危うく飛んできた大ムカデに轢かれるところだった」


「轢かれたとしても契約とやらでなかなか死なんでしょ、あんた」


「でも痛いんだ。これ見る?脇腹貫通したやつ」


「いや、いい。見せんくて良いよ」


「俺も見るさ?足もげるかと思ったやつ。人魚と行動共にしてると感覚おかしくなるから気が付いたら足に矢が刺さってた。笑える」


「見せんくていい!!」


「あんた達は子供か?」


しきりに傷をカリアに見せようとする男二人にキリコは呆れ半分で言った。取り敢えず生還したことに嬉しくて、構ってほしいのはわかるが、二人とも数ヶ月に渡り人との接触がほぼなくて構われ方がおかしい。

転んだ傷を母親に見せようとする子供のようだ。

案の定カリアに怒られている。


でも正直分からんでもない。

キリコも小さいときはカリアに出来た傷を見せに行ってた記憶がうっすらある。

もちろん今はない。


「ほら、俺ここから動けないからまたいつカリアに会えるか分からないから出来るだけ喋っておきたいんだよ」


「……極限状態のせいで本音駄々漏れよ、ザラキ。あんたがここを守ってくれてるからこっちは安心して行けるんよ。心配しなくても死んだとしても会いには来てやるから」


「出来るなら生きている間に来てくれ」


首を横に振るザラキ。


カリア達は次の激戦地になっている所へ向かうために船へと乗り込もうとしている。ルキオでの戦いはある程度治まった。ここで死んだものは数えきれない。恐らくルキオの地全体に血が染み込んでしまっているのだろう。何処を見ても地面が赤く、白いものや黒いのが転がっている。

あの大ムカデの後、最後の攻撃だと言わんばかりに鉄の塊が雨のように降ってきて運のなかった仲間達はあっという間に土に還った。


誰かが鉄の暴風雨だと乾いた笑い声を上げながら言っていたが、こんなにもしっくりくるものは無い。


それでも龍達が風の結界を小規模ながらも張ってくれてたおかげでカリア達は生きてる。ルキオ戦は運が試されるものだった。運が無いものはすぐさま消えた。


それは誰であろうと変わり無く、ジュノの者も世代交代が行われた。そう、スワとアリテが亡くなったのだ。あまりにも無慈悲な鉄の暴風雨は、後方の治療キャンプにも降り注いでいた。今はトルテが長として獣人ガラージャ達を纏めている。バラクとラシュもトルテを支え、何とか悲しみを乗り越えようと必死だ。


ちなみにグレイダンは。


「キリコ!!我の背中に乗ると良い!!ビャッカとやらにすぐに着くぞ!!」


「嫌よ。今は婚姻関係結ぶ訳にはいかないわ」


「違う!違う!我はそんなつもりで言ったわけではない!!」


「じゃあ師匠達も乗せなさいよ」


「……………」


「そっちもどさくさに紛れて縁を結ぼうとするな」


緊急事態のせいなのか本能なのかナチュラルにキリコと婚姻関係を結ぼうとしているのだが、それを悟ったキリコがグレイダンを突き放している。何となくグレイダンがかき集めたはぐれ飛竜達に言われたような感じだが、キリコにしてみればそれどころではない。

それを察したカリアに説教食らっているが、男よりも戦いまくる彼女らには本能よりも戦闘だ。

今は諦めるしかない。


「それよりアウソはいいの?戻ってきて。まだアケーシャ達忙しいんじゃないの?」


アケーシャ達は海の王、人魚達と海を駆け巡り海から来るやつらを殲滅していた。人魚と精神的な繋がりがあるアケーシャは人魚と言葉を交わさなくとも意志疎通することができ、アケーシャに流れる人魚の能力を少し解放してくれる。

それによって、海中と海上で連携を取り、封鎖をしていた。その範囲は広く、ルキオから赤い海のギリギリにまで及んだ。


アケーシャは大きな帆の付いた小型の船を巧みに操りながら、海で一番早いと言われる人魚と同じ速度を出して縦横無尽に走り回っていた。その間、アケーシャは不眠不休だ。いくら人魚の能力を解放してても痩せる。


「父…族長から許可出たから、ここは任せろって。だから行く」


「王様の許可は?」


「そっちも大丈夫って。走り回れる足があり牙を持ってるなら、持たないものを助けに行くのは当たり前ってさ。ルキオの方も」


「言い回しが固くて良く分かんないこともあるけど、基本的には王様懐広いわよね。海も陸も」


「それがうちの良いところさ。それより、オレ人魚達に神具の使い方教わって、凄い事できるようになった。次は悪魔戦に参加できるぜ!」


心底嬉しそうなアウソ。それほど悪魔戦参加したかったのかとキリコは思った。そういやこいつ昔からこんなだったな。出来ないのが悔しくでめっちゃ頑張って付いてくる。


「運が良ければライハにも会えるかもだし、な」


この戦争でだいぶ使い込んだ槍を撫でる。

ライハか。いつの間にか随分遠くに行ってしまった印象だ。確か隊長やっているんだったか。


「じゃあルキオを任せたよ」


「そっちも気を付けろな」


ザラキと分かれ船に乗り込んだ。


「じゃあ我達は先にいってる。またなキリコ」


本来の姿に戻り、グレイダン達は翼を広げ飛び立った。彼らがいるだけでも頼もしいから、マゾンデ国の戦況を少しでも変えてくれてら嬉しい。


「キリコ行くよ」


「はいよ」













遊撃隊は暇である。

もちろん実際は暇ではないし、訓練漬けで、他の隊にドン引きされるほどの密度だ。だが、先日タナカ(案内してくれた人だが後になってここの責任者だと判明した。)から、少し射撃場を開けてほしいと言われた。


確かにオレも射撃場使いっぱなしで大丈夫かなとは思ってた。


試作品の試し撃ちをしまくり、その成果か武器の精度がグングン上がっていく。だが、他の隊にも使わせてくれとの声があったらしい。


なんだよ君ら、待機は楽だーとか言いながら仮設された寮に籠ってたじゃないか。


「というわけで、実戦的訓練をしようと思う」


「…お前…」


ラビが渡された地図を見てすぐさま察してオレを見る。そうです。ノーブルの亀裂を塞ぎに行こうかなーと思いました。そうすれば訓練もできるし亀裂を塞げるし魔物も退治できる。一石二鳥ならぬ一石三鳥。


「相手は割りと強い魔物、と、多分悪魔もいる」


悪魔の単語で誰かが息を飲んだ。


「いけそうなら殺るが、無理そうなら即撤退してエドワードに報告書出して正式に武器使用の許可を取る。それまでは今までの武器で頑張る。でも個別に貰ったのは許可な。あれプレゼントと同じなんで」


先に着いた遊撃隊はここの研究員達と仲が良い。

空いた時間にお茶会するほど仲が良い。


互いの情報交換で武器の精度をあげようとしている方向性が一緒なのと、オレがこんなんだから軍イコール偉そうにしていないからだと思う。戦場ではともかく平時では立場は公平だ。とすると、自然とこれあげるから感想くれと武器をくれたりする。勿論オレもだが、既に盾あるし、剣はオレのが切れ味も強度も格上だ。なので、貰ったのはより正確に取り出したい魔方陣札を取り出せるケースを貰った。地味だが助かる。

ネコは世界一上手い煮干し。


「よし行くぞー!!」


「「「おおー!!!!」」」

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