第422話 前線予想地へと.4
こんにちわ!ネコだよ!
ネコは今とても幸せなのです。
大きい友達もたくさんできて遊んでくれるし、ご飯も美味しくて、ライハもいて、危険なことはあるけれど、それなりに充実感一杯。
カリア達と旅をしていたときもとても楽しかったけど、ネコは今もとても楽しいのです。
ここでまたたくさん構ってくれる人ができて、嬉しい。遊撃隊のシンボルを着けたスカーフみたいな首輪を着けてないといけないのは窮屈だけど、巨大化してしまえばそれすら飲み込んで身軽になる。でもこれ着けてないと建物のなかを自由に歩けないのが辛いな。逆につけていればどこにいても良いって言われているから我慢するけど。
今はこの建物のお姉さんに煮干しをプレゼントされて、たくさん撫でられてきて機嫌が良い。ネコでもライハみたいにスキップが出来そうな程。
『ライハー!』
せっかくだからこの嬉しい気持ちを分けてあげようとライハを探しているんだけど見つからない。
魔力の探知でいつもなら見付かるのに、今日は何故か外されている。エルファラとかいう仲間が教えたのかなんなのか知らないけどさ、ネコがライハを見失うってのは、身体の半分無くすのと同じなんだからそういうの本当に止めて欲しい。
『ねぇねぇ、ライハ見なかった?』
仕方がないから近くの大きい友達に訊ねてみることにした。
「隊長ですか?」
「そういや見てないですね。射撃場にも居ませんでしたし」
大きい友達は首を振る。
『ねぇねぇ、ライハ見てない?』
片っ端に大きい友達に訪ね歩き、ラビを見付けた。彼はアウソみたいにブラッシングがとてもうまいライハとは違うお気に入りの友達だ。
いつもライハの行動を追っては助けてくれてるラビなら知っているだろうと訊ねたのだが。
「実は俺も探しているんだよ。あいつ自室にも居なかったし。やっぱりあの報告書直に渡すんじゃなかったな」
『報告書?』
「マゾンデ国の報告書。隊長クラスには渡さないといけなかったんだけど。失敗したな、もう少しタイミングを見てから渡すべきだった」
ライハが居ない理由は報告書が原因?
「俺ももう少し探してみるから、ネコも見付けたらラビが怒る前に出てこいって言っておいてくれ」
『わかった!』
ラビが駆け足で去っていく。
全く、世話の焼ける飼い主だなぁ。
それにしても報告書って何が書かれていたんだろうな?
『ライハー!ライハー!』
大声出しすぎてニャーニャーと複声が混ざり始めた。疲れてきたり感情が昂ると勝手に出てくるのが困る。
早く見付からないと声出なくなっちゃうよ。
『ん?』
目の前を
戦場では皆上空へと避難してしまっていた精霊の姿を見掛けるのは久し振りだ。ネコパンチを出さなかったものの、自然と
ネコはそれを追い掛けた。なんだか知らないけどライハは
『あ!』
外に出た
違ったか。そう思って引き換えそうとしたのだが、
『よっ!』
器用に壁を飛んで上まで上っていくと、
膝を抱え、顔を
『……ライハ?どうしたの?ラビが探してるよ?』
微かに鼻を啜る音が聞こえた。泣いてる!?
『ライハ!!どうしたの!?苛められたの!!?』
ニャーニャーと口から大音量で複声が飛び出てくるが止められない。身体にタックルしてしがみついてもライハは「ちょ…やめ…」と小さく声を上げるも顔は上げない。
さては報告書に苛められたのか!!!ネコは報告書見た事無いけど!!ライハ苛めるならネコにとって報告書は敵扱いするぞ!!!
背中に頭をぶつけてグリグリしていたら首根っこを捕まれた。
「…もぉ、こんな顔だったから隠れてたのに」
ライハは少し目を腫らしていた。やっぱり泣いてた。
ライハは胡座に座り直すと、足の間にネコを座らせた。このポジション落ち着く。
「まったく。
ははは、と少しライハが笑った。
「トビアス、いたじゃん」
『いたね。ネコに内緒で肉くれてたイイ人』
「……たまに口の回り汚してたのそれか。そのトビアスがな、死んだって」
『死んだの?あのおっちゃん』
実感がわかない。なんで?つい先日までまた戦場で会おうって言ってたのに?
ライハと少し仲良くて、たまに支給される黒い飲み物を至急品苦いし不味いって言いながら笑ってたのに?死んだの?
トビアスはリオンスシャーレ南部戦で一番付き合いが長くて、同じ隊長格としても仲が良かった。
「戦場で、仲間がバタバタ殺られても、なんか割り切りが出来ていたんだろうな。ああ、死んでしまった。って、ラビの時は、ただひたすらヤバい!!って感じだったけど、なんか全体的に感覚が軽くて、遺体を弔うときも悲しいって言うよりは安らかに眠って下さい、仇は取りますって感じだったのよ」
『うん』
その感覚は何となくわかる。でもだからこそライハは仲間が死ぬのを出来るだけ見たくなくて、死なないように繰り返し過酷な訓練をしているのを知っている。
「それがさ、遠くで死んだって聞かされて、戦場じゃないからかも知れないけど悲しかったのよ。物凄く。ダンが死んだときも涙は出なかったのに」
それは違うとネコは思った。
ライハはエルトゥフの森での戦闘の前に、よく
「……、で、涙がなんか止まらなくて、ついでにダンとか、戦場で死んでいった奴らの事も思い出しちゃってヤバいと思って、止まるまで隠れてたら空から降りてきた
『そっかー』
胡座の上に丸くなる。尻尾を伸ばしてライハの胴体に回した。
『
それしかネコには出来ない。
ついでに尻尾で背中をトントン叩いてやるくらいか。
「ありがとう、凄い助かる」
そこからライハの涙が止まるのに少し時間が掛かり、ラビに二人して謝りにいくと、何か察したラビが。
「次は一応居場所くらいは教えろよ。気が済むまで結界張って隔離してやる」
と、言われた。
連合軍が沈静化したルキオから動き、船でビャッカへと移動し初め、イリオナとノーブルに大型の転移装置が完成間近になっている頃、シラギク達と合流を果たしたニック達は、ウォルタリカから移動を開始し、イリオナを目指そうとしていた。
「アカン。このままじゃあ気ィ狂ってまう」
レーニォが真っ二つの新聞を持ったまま真顔でそう言った。
それを冷静に見ていたカミーユとノルベルト。
「まーたレーニォの発作が始まったわ」
「だから一緒に行けば良いのにって言ったじゃねーか。なぁ、ガル」
ノルベルトに振られたガルネットが珈琲を手に首を縦に振った。
ここはウォルタリカ寄りにあるドルイプチェの街、ウィルドラルド。金持ちが多く滞在し、豪邸が並ぶ、通称ゴールドシティである。そこに、ニック達は暫し滞在していた。宿屋ではない。豪邸に。ここはガルネットの彼女の家だ。
「なんでラビは軍に入ってしもうたんやぁー!!!」
「ライハ追ってだろ?」
「なんでライハは軍に入ってしもうたんやぁー!!!」
「知らんよ」
レーニォの発作は今に始まったことではないが、一日一回は必ず新聞をパーンッ!!するのをやめて貰いたい。と、ニックは思っていた。
煩い。
手元の資料を読みながらニックは溜め息を吐く。また遣いが一人消えた。なんの意図か知らないが、積極的に神への妨害をしようとしている奴がいる。遣いといっても魔術師だけじゃない。情報屋だったり、冒険者だったり。戦闘に秀でている奴だけじゃないが、こう続けて殺られると不信感が。
気を付けねぇとな。
「なぁなぁなぁなぁ!!!いつ出発するんだい!!?俺も早く戦いたいんだけど!!!」
「うるっせぇな!!!静かにしろよ!!!」
テーブルガタガタさせるな紅茶が溢れる!!
「今シラギク達が調べているからそれを待て!!」
実は今、北の方で伝染病が広がっている。発熱と嘔吐と意識混濁。突然フリーダンからこれを調べてくれないかと連絡が来たのだ。魔力が暴走してのものか、でもそれにしては魔力の殆どない人が多くかかっている。
シラギク達が病院に忍び込んで情報を手に入れるはずだから、それをフリーダンに送れば行ける。
行きたいのはニックも同じだ。
なんだか身体がソワソワするのだ。
嵐の前のような、気持ちの悪い落ち着きのなさ。
「ああ、くそ。戦争なんか早く終われ」
食糧難で質の落ちた紅茶を飲みながら、ニックは思った。
戦争なんて良いことなんてなにもない。
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