第410話 押し込め!!.8

「押し込めえええええ!!!!」


何処かで怒号が上がり、それに合わせて攻撃を変えていく。

遊撃隊として稼働し初めてから、今日で一ヶ月半程。地味に消耗しつつも、それでも諦めることなく、まるで岩石を鶴嘴ツルハシ一本で地道削っていくが如く、雑兵達を海側へと押し戻していく。












リオンスシャーレ南部、最前線。


視界の彼方には水平線が見える。その手前に灰色の壁が、海への道を塞ぐように立っていて、その壁を突破されないように雑兵が守っている。


もうすぐ終わりそうなのに、雑兵達が粘り強すぎてここでの戦いが長引いている。


主に機関銃だ。あいつのせいで前に進めない。

身を隠している岩壁がガリガリ削られる音に恐怖しながら、殆ど勘で矢を上空へと放っている。

雷の矢は威力も速度も完璧なのだが、何せ直進しか出来ないので、雷の矢で射つためには体を機関銃の真ん前に晒さなければならない。

そうなるとどうなるか?勿論蜂の巣だ。

何が楽しくて相討ちみたいなことをしなければならないのか。


この前目元を掠めていった弾があったが、失明したかと思って焦ったぞ。


(これが魔法弾だったらなぁ、暴食の主でなんとかなるのに)


未だに腕に巻かれっぱなしの暴食の主。オレが持てば飛んでくる魔法をことごとく食べてくれるので便利な結界代わりだと喜んでいたのたが、機関銃の前だと無力。こいつは魔法で作られたもの以外食べてくれない。


試してみたけど効果無しだった。


なのでアーノルド達が作ってくれるこの岩壁を盾にしながらじりじりと距離を詰めているわけなのだ。


『お? あ!壁来るよ!』


ネコの示す方の空に皺が寄り魔方陣が浮き上がると、真ん中からタイルのような壁が落ちてきて地面に突き刺さった。

これ作る度にアーノルド達は全力疾走しているみたいに息を切らせて、魔力補給剤を煽っているんだなぁと思うと申し訳なくなる。

創成魔法は恐ろしく疲れる。

普通の魔法とは違い、一から材質強度層の構成を決められる分魔力消費がごっそり持っていかれる。


だからニックは創成魔法嫌いとか言ってた訳だけど。


普通に魔方陣で作れば良いじゃないかと思われるでしょうが、遠距離なら堪えられた壁が、ここまで近距離になると穴を開けられるのである。


どんなに強度を上げてもガリガリ削られて、長く止まるのは危険。


そんなわけで、石、鉄、木の層を細かく組み合わせた特殊な防御壁を一枚一枚手作りしてもらっている。

魔方陣の開発班が解析し終え、魔方陣を安定した形に整えられれば量産が可能になるが、それまでは頑張ってもらうしかない。勿論オレ達も頑張るから。


「よし、前に出るぞ」


『ネコ毎回これ怖い』


「本当にありがとう、君のお陰でまだ遊撃隊誰も死んでないから」


重傷者いるけど、まだ生きてる。


『ふぅー、ふぅー。よし、いくよ!』


ネコが防御壁から飛び出し巨大化する。

その瞬間ネコに集中砲火されるが、物理攻撃を無効化するネコには効かない。効かないが、体が弾によって吹き飛ばされるのは辛い。ネコも大分体を弄って痛みを消すことも出来るようになり、オレのピアスが無事な限り復活できるようにしているらしいが、恐怖はどうにもならない。


しかし、それでもネコは壁移動の時に毎回囮を買って出る。


『ガルアアアアアア!!!!』


ネコが体を吹き飛ばされながら悪魔達に襲い掛かる。


「今だ!」


オレの後ろに控えていた部下が素早く新しい壁に移動するとき、今まで隠れていた壁を見てみると、表面が削れ過ぎて最後の層が見え始めていた。ギリギリだったのか。


全員移動し終えた頃に、ネコの体を保つ魔力が尽きて、オレの影から泣きそうなネコが姿を表した。


『……めっさ怖かったよぉ』


「よしよしよしよし、よーくがんばった」

「ネコさんありがとうございます」

「お礼に俺のお肉分けてあげます」


ありがとうとネコを撫でまくり、隊員達も全力で誉める。


それもそうだ。ネコのお陰で、オレのところの隊員だけまだ負傷者すら出してないのだから。壁の移動だけで大変なんだ。本来なら。


現に隣にいたラビが腹撃たれて血を吐いたのを見たときは肝が冷えたもんだ。死んだかと思ったから。今は後方で治療を受け、明日にでも復帰出来そうだ。


それにしても、雑兵の弾が中々尽きないな。

尽きないようにしているんだろうけど。


「隊長、あれ何でしょう?」


「ん?」


手甲にある鏡で確認してみて、オレは目を疑った。腰ほどの高さはある緑色の筒、細い土管に似ているが、土管に不必要な筈の標準器と取っ手。

まさかと思うが、傍らにある機関銃を見て理性があり得ると判断つけた。近くのやつがこちらを指差し、筒を持った奴が片膝を着いて筒の先端をこちらに向ける。

それを見る隊員はまだ理解していない。


それも仕方がないのかもしれない。

こちらの世界は戦闘には主に魔法や剣を使用するが、まだ近代兵器というのは銃以外登場していないのだから。


筒の後が火を噴く。


それを見た瞬間的体が勝手に動き、壁から飛び出して走り出していた。


「隊長!!!」


あれを喰らえば隊員達はバラバラだ。


放たれた弾を避けることもせず、ただまっすぐに飛んでくるロケットランチャーの弾だけを見て、標準を合わせた。

身体能力向上、纏威発動、右腕に魔力を集中させ、まだやったこともない跳ね返し魔方陣の連結発動。


弾が皮膚を貫き肉を裂いてる痛みさえ意識から遠く放り投げ、目の前の弾に集中した。体感時間は恐ろしく遅く、長く引き伸ばされている。


近代兵器の弾と決死の勝負。

負ければ腕が消し飛ぶ。


「ぅらああああああっーーー!!!!」


全体重を拳に乗せ、振り切った。

重い振動が連続で腕を襲い、盾が鈍い音を立てて割れていく、が。


「ーーああ!!!!」


ロケットランチャーの弾が爆発し、その爆発が盾によって進路変換。ロケットランチャーが爆発した威力が全て雑兵達の方へと返っていった。

灰色の壁が燃える。雑兵は信じられないという顔のまま吹っ飛ばされて叩き付けられていた。


「遊撃隊に続けえ!!!!」


「押し込めえええええ!!!!」


何処からかそんな声が聞こえて、膠着状態だった戦況が動き始めた。


飛び交う怒号に、弾に、煌めく剣に、堰切った洪水の如く溢れ出し、雑兵達を飲み込んでいった。









その日の夕方。オレ達は勝利をした。

生き残った雑兵はおらず、壁の向こうには残りわずかな機関銃の弾薬と、何もない海だけが残されていた。

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