第403話 押し込め!!.2
ギリスの魔術師から上級の氷結魔法の魔方陣を教わり、隊総出で魔方陣作成に取り掛かった。オレが行わせた魔方陣をひたすら描かせる訓練のせいで魔方陣を描く間誰一人として口を開かなくなるが、ほんの一時間程で相当の数の魔方陣を作成することができた。
ちなみにオレとラビもそれに参加した。
隊員達よりも描いている筈だが、人間得意なものはあるので、流石というか何て言うか、ラビ達の速筆連中に叶わなくて少し悔しかった。
特にダリウス。あいつ一人で、通常の隊員の三倍は作成していた。化け物だと思う。
「作りすぎたかな」
目の前に、札束ならぬ魔方陣束が山積みされていた。
途中から誰が早く正確に魔方陣を描くことが出来るかみたいな勝負になっていて、気が付けば山になっていたのだ。正直こんなにいらない。二束あれば十分だろう。
「さすがは遊撃隊だ、短時間でこんなに作るとは…」
「作りすぎたんで要りますか?」
「いや、うちの部隊は魔力があるのがいないので使い道がない」
「トビアス隊長。夏場、涼むのに最高の魔方陣ですよ。魔石で決められた所に線を足すだけで発動できます。地面の凍結は30分程ですが、その後もしばらく涼しいですよ。買うなら今」
「一束貰おう」
「毎度」
「ラビ、どさくさ紛れに商売するな」
でもせっかくなので全ての部隊に配った。どうせなら食材保存の為にでも役立てて欲しい。
「ライハさん」
ギリスの中級魔術師、アーノルドがやって来る。昨日“エンビョウの水鏡”を発動させていた人だ。ニックに似た色彩だが、全体的に明るく、優しそうな人だ。ニックに似た色彩で少し体がトラウマ植え付けられてビビっていたのだが、少し話すだけでトラウマ解消された。
ギリスの人皆がドエスだと思ってすみませんでしたって謝りたいほどこの人良い人。
「アーノルドさん。そっちはどうですか?」
「こちらも準備完了です。そちらの部隊が優秀なので助かりました」
「いえいえ、貴方様の教え方が上手いお陰です」
実際教え方が丁寧で助かった。
ニックは雑なときと詳細に教える時の差が激しいから。
「それでは首尾よくお願いいたします」
「こちらこそ」
翌日。
ヤテベオ網を突破するために作戦が開始された。
「目標地点まで後100メートル」
トビアス達部隊が指定された地点に魔方陣を設置していく。印はまだ付けていない。ギリスの魔術師達が更に大型の魔方陣を設置するので、付けなくても良いと言われた。
その魔方陣を見たいと思ったが、残念ながらオレ達遊撃隊は突撃の援護部隊なので見られないのが残念。
「我々は突撃部隊と共に行動します。連係は上手くありませんが、速度はあるので、出来るだけ数多く首を狩っていきます」
駿馬に乗ってないハンターは、軍よりも小回りがきく。岩や崩されたヤテベオの欠片や骨で悪くなった足場はハンターの十八番である。
そうしてスケルトンの薄くなった箇所から遊撃隊が突入し、恐らく悪魔か変異体がいる筈なのでそこを叩いて道を抉じ開け、そこに通常部隊が雪崩れ込んで海側に押し込んで行く作戦だ。
あの女の悪魔が少し気掛かりであるが。
万が一の事を頭の片隅に置いておきながらも、今ある作戦に集中する。
「そろそろか」
魔方陣を設置しにいってた部隊が戻ってきて、配置につく。
弓状にあるヤテベオの壁沿い三ヶ所に突撃部隊。中央にハンターの元偵察部隊。今は名前が変わって遊歩部隊となっている。その後方にギリスの魔術師達。突撃部隊に挟まれる形で二手に分かれて遊撃隊。オレが率いるのとラビが率いるの。
3日前ほどにギルドから簡易連絡機のプロトタイプが届き、試験的に隊長と副隊長各が装備しているが、ノイズが混ざっていて感度は良くない。けれど聞こえるだけマシって感じだ。
『ネコもやりたかったな』
「ネコは元々オレと魔力通信してるだろう」
『あー、そっか』
左耳からノイズが聞こえる。
《──ザザ……カウントダウン開始。各自巻き込まれないよう注意してください。10…9…8…7…6…》
空気が変わっていく。
上を見ればキラキラとした魔力の光が右に左にと根を張るように流れていく。
《4…3…2…、発動!!》
ゾワリと鳥肌が立ち、地面から光輝く線が浮き上がる。いや、これは巨大な魔方陣の一部だ。今まで見た中で最大。大きすぎて線しかみえない。
それが音もなく水色に弾けた瞬間、魔方陣を設置したところから六方向の白い線が伸び、そこから更に斜めに細かく線が入ったと思えば、ヤテベオを巻き添えにして、あっという間に氷の大地が広がっていた。
雪の結晶がいくつも重なった模様が神々しさすらも感じさせる。
《投石開始!!》
オオンと重たい風切り音をさせて大きな石が次々にヤテベオへと降り注いだ。凍り付いたヤテベオはなすすべもなく粉々に砕かれ、後ろにいたスケルトン達の姿が見えた。
《突撃!!!》
トビアスの合図で各隊が攻撃を開始した。
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