第404話 押し込め!!.3

一斉に突撃部隊が飛び出していく。だが、遊撃隊はまだ動いてはならない。ネコが灰馬の上で目を輝かせながらまだかまだかと出番を待っているが、まだだ。


突撃部隊が次々とスケルトンを狩っていき、頭蓋に火を放つ。先を行く遊歩部隊がようやく活躍できると積極的に剣を振るっているのが原因だろう。大型の魔物で活躍できなかった分の鬱憤すら剣に乗せて、意気揚々と歩を進めていっていた。


オオン。またしても岩が遠くに残されたヤテベオの壁へと突っ込んでいく。今思えば氷の塊か、なんならリューセ山脈の氷雹石でも突っ込ませれば破壊と凍結を一石二鳥で行えるな、とまで考えてその後、氷雹石の片付けがめんどくさい事に気が付いて止めた。

岩なら割れてようが無かろうが、最悪放置してても良いが、氷雹石は必ず回収しなければならない。でなければその一体だけウォルタリカ並みの気温になってしまうことだろう。


《ザ………ザザ……こちら突撃部隊のマルコフ。こいつらたまに爆発するぞ、気を付けろ……ザ》


《ザザ………ちらトビアス。了解した……ザザー》


スケルトンが爆発するらしい。何故だ?どっかに爆弾でも仕込んでいるのか?


《ガガ、ザー……こちら遊歩部隊、エミリアナ。奥に複数の大型の影。変異体だと思われる》


そろそろ出番か。


「遊撃隊ライハ了解した」


『なんて?』


「遊撃隊の出番だぞーって」


『よーし』


鼻をフスフスと鳴らしながらやる気に満ちたネコを微笑ましく眺めてから、後ろを振り返り、第一班、第二班に声を掛ける。


「遂に遊撃隊の出番が来た!!戦場は敵味方が入り乱れているが、だからといって駿馬で味方を蹴飛ばして良い理由にはならない!!」


笑いが起こる。


「なので充分気を付けながら、それでも素早く突撃部隊の前へと躍りだし!!待ち構えている変異体に遊撃隊の剣を味わせてやろう!!!剣を構えろ!!」


通信機を起動させる。

カウントダウン開始だ。


「ラビ、突撃まで後3…2…1…」


前方に向けて剣を振り下ろす。


「突撃ぃ!!!」


おおおおお!!!と雄叫びが向こう側でも聞こえ、砂埃が舞う。灰馬が一蹴りする事に速度が上がるが、それを宥めつつも皆が着いていけるギリギリの速度で駆ける。

突撃部隊の駿馬達が踏み均してくれたから、安心して速度を上げられる。そろそろ最高速度へと到達するときに、トビアス率いる部隊を追い抜いた。


生存しているスケルトンが襲い掛かって来るが、既にこちらは最高速度へと到達している。振りかざしてくる剣ごと蹴り飛ばし踏み潰しながら前へ前へと走らせる。

撥ね飛ばしている。その表現がしっくり来た。


確かにオレ達の駿馬は自動車と同じ速度が出ている。その前に突然飛び出してきたスケルトン。後はどうなるか、容易に想像出来るであろう。空高く撥ね飛ばされたスケルトンは回転しながらすぐ後ろへと落下し、踏み潰された。

南無。


前線で戦っていたハンター達遊歩部隊の姿が見える。


そろそろ交差するか。


左斜め前方に多数の大きな影を発見。

その瞬間、右側から数多くの魔力の気配を感じ、そこから火炎弾が大量に放たれ影に被弾した。


しかし、火炎弾はすぐさま白い煙となって消えた。

変異体の中に流水属性魔法を使えるのがいるようだ。


「隊長!あれ!」


鶏冠飛虎トサカヒドラか!!」


前方に上に弧を描く角の間から水色の風船に似た鶏冠とさかを頭に乗せて空を飛ぶ虎が現れた。それに9匹ほど纏りつくように飛んでいるスエムという体が石に似た甲殻を持つ飛び鼠も厄介だ。あれは尻尾に毒と、小規模な霧を発生させて放電する。連携を取られるとやりにくい。


《ライハ、奥の方に蜥蜴亀バクガミとタテガミ猿、あとヤバイのを見付けた》


「ヤバイのって何だ?」


《カミキリケムシ》


真顔になりかけた。一生蝶にならない毛虫。それもただの毛虫ではなく、毛には全て毒を持ち、カタツムリに似た殻付きの電車ほどのサイズの虫。おまけにこいつ肉食で、鮫のように歯がどんどん生え変わる。ついでに言えば最悪の、属性魔法を持っている。『浮遊』と『重力』。攻撃を仕掛ける前に近付けるかが問題だ。

とんでもない奴等を変異体にしやがって。


変異体をすぐさま各隊長に報告していると、鶏冠飛虎が流水属性魔法の水鉄砲を発動してきた。変異体だけあって大きさがある、当たれば脱臼か骨折。悪けりゃ死ぬ。


「総員、全力で回避しつつ先にスエムを落とせ!弱点は腹側の隙間!!負傷者がいればすぐさま下がって治療をしろ!!」


「はっ!」


駿馬が慣れたように動き、鶏冠飛虎の水鉄砲を回避していく。訓練中、駿馬に騎乗中襲われても大丈夫なように鍛えておいて良かったと心底思う。

灰馬が魔物を煽るように嘶くと、鶏冠飛虎が標的を変えた。


追い掛けながら撃ち込んでくる水鉄砲を易々と避け、スエムが小規模な霧を発生させると、ネコが尻尾を扇子型に変化させ、風を起こして霧散させる。放電も霧がなければオレが避雷針となって全て引き受けられる。

そうこうしているうちにラビも合流し、あっという間にスエムは全て切り落とされ、鶏冠飛虎も尻尾を巻いて逃げ出した。だが、遊撃隊の第四班の魔法攻撃によって、翼をもがれて落下した。


「ラビ!奥のケムシ行くぞ!あいつを何とかしないと被害が多くなる」


「オーケー!隊長!!」


次の標的、タテガミ猿と蜥蜴亀に襲い掛かりつつ、オレとラビの駿馬が噛み付こうとしている蜥蜴亀の甲羅を踏みつけ飛躍し、叩き落とそうとしてくるタテガミ猿を蹴り飛ばして一足先に奥へと到達すると、異様な存在感のあるカミキリケムシへと電撃攻撃魔法を放った。


ラビは特訓により、中位電撃属性魔方陣を瞬時に描けるようになり、今ではオレのノーマルな雷の矢と同等の威力が出せるようになっていた。

二方向からの電撃にケムシの体がビクビクと痙攣する。一見効いているようにも見えるが、それは間違いだ。このケムシは器用に毛を伝導体のようにして、電撃を地面に流している。


「ネコ、殻を頼む!」


『ほいさっさ!』


待ってましたと素早く灰馬から飛び降りカミキリケムシへと突進していく途中、殻の内側から見たこともない触手が伸びてネコを捕まえようと四方八方から襲いかかってきた。


「なんだあれ!?見たことないぞ!!」


「あれも毒かもしれん。気を付けないと」


驚くラビだが、既に手に次の魔方陣を用意している。


ネコはスルスルと避けきり殻に飛び乗ると、尻尾の先を細く鋭利に変化させて殻に突き立てる。


何かされると察したカミキリケムシが暴れてネコを振り落とそうとしているが、無駄だ。ならば触手で何とかしようと伸ばしはじめている所を、灰馬から飛び降りたオレが剣を一薙ぎ。伸ばされた触手の切り口から透明な液体が飛び散った。


痛みを感じるのか。激しく仰け反ったケムシから魔力が溢れ出す。来る。

次の瞬間、上から巨大な手が叩き潰そうとしているかのような重圧がのし掛かってきた。

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