第398話 戦場へ.10
どのくらい経ったのか、地面はルツァで埋め尽くされ、遠くの方で悪魔達が遠巻きでこちらの様子を伺っている。手には機関銃。
あいつは避けられない。だが、あっちもこちらを撃てない。何故ならこちらも既に魔法を発動していて、機関銃を撃てばこちらも即大質量の雷をお見舞いしてやるつもりである。
勿論結界なんて押し返す。それでルツァが全滅しているのを見ているので、あちらも下手に手を出せないのだ。
膠着状態。
だが、これで良い。
今んところ陽動の役目は果たせているので問題はない。あとは皆がこの隙に施設の破壊を遂行してくれればこちらの勝ちである。勿論、全てがそううまくいくわけないのもわかっている。
現に、なんだか悪魔達が何処かに連絡を取っていた。
嫌な予感がするが。
『ねぇ、ライハ』
「なに?」
『これさぁ、陽動としてはこれ以上無いほどの働きだけど、これネコ達もピンチじゃない?どうやって切り抜けるの?』
「…………、それな。どうしようか」
『考えてなかったんかい』
一応考えてはいたのだが、まさかこんなに早くルツァに囲まれるとは思ってなかったので、こっから先は完全未知数。どうなるのか分からない上に助けがくるのは遥か先。しかも撤退する前の大掃除も残されている。
「だって予想できた?これ」
『…………いにゃ』
ネコが頭を横に振る。
「だろ?」
大体予想できていれば、もう少しマシになってただろう。
視線を奥の方に向ければ、山がこちらに向かって動いてきていた。いや、違う。あれはサーザ国に生息するマウンテンタートーだ。甲羅を多い尽くす苔は茶色に変色し、頭だけではなく甲羅からも黒い角のような突起が突き出している。
「……うそん」
マウンテンタートーは昔から姿が変わらないことで有名である。よってルツァにはなり得ない種族なのだ。それがどうだろう。目は血走り、穏やかな性格の筈が、鼻息荒く今にもこちらを踏み潰さんとばかりに睨み付けている。
あれはルツァなのか?
『やってくれたじゃないか』
マウンテンタートーの足元に人影がある。
『ソンヤ様!!』
『こちらです!!今すぐぶっ潰してやりましょう!!!』
くわぁと欠伸をしながらやってくる影は頭は蜥蜴、黒い角とネズミの大きな耳が付き、髪は植物の蔦が風に吹かれて靡く。男とも女とも見分けがつかない体つきに、ネズミの尻尾。すらっと長い手足には鱗。半透明の布を身に付け、ゆったりとこちらに向かって歩いてくる。
すぐにわかった。
あいつは、強い方の悪魔だ。
赤い目がこちらを見る。そして歯を剥き出して笑いだした。
『あははははは!!!うそだろ?やっべぇ俺ツイてるじゃん!!お前ライハだろ?』
「誰だ」
呼び捨てにされる知り合いなんか悪魔にいないはずだが。
『俺らの間での有名人だよ!なんでも?お前を狩れたら階級が上がるとか。あとはー…、そうそう。めっちゃ美味いって聞いたぜ!!ジョウジョから!!お前に狩られたらしいけどなあいつ!!ははははは!!!』
何がおかしいのか腹を抱えてソンヤとか言う悪魔は笑う。
なんだ?悪魔達は仲間意識とかは無いのか?
『ってな訳でぇー、俺がお前を狩って、階級も美味い肉も頂き!って感じな!』
「そう簡単にいくとか思ってんの?」
『いくさ。ーーーやれ』
ーーォォォォオオオオオオオオオンンン
サイレンが間延びした音と共に、影が落ちてきた。
頭上一杯にマウンテンタートーの足が覆い被さり、それが一気に降ってくる。
手を空へ向けて雷を飛ばす。が、通常の雷では当然弾かれる。この亀、亀の癖して熱耐性があって火にも強い。亀なのに。だからといって氷でも聞くのに時間がかかるし、毒でも時間がかかる。ひとつだけ、甲羅や甲殻に覆われてない部分に攻撃をするしかない。だけど。
『撃て撃て撃て!!!』
「!?」
四方八方から機関銃が火を吹いた。
突然連携が良くなった。
「行くぞ!!!」
『うん!』
足に纏威を発動し、足を上げると全力で地面を踏み締めた。捲れ上がる地面が悪魔達から視界を遮り、撃ち出された弾が捲れた地面に当たって更に細かく砕ける。が、オレ達は既に脱出した後だ。遥か下で土塊が弾と衝突してますます視界を悪くさせて、マウンテンタートーが踏み締めた際に発生した風で飛んできた流れ弾が仲間に当たって悲鳴を上げていた。
黒い翼が大きく羽ばたく。
巨大化したネコが翼を広げ、オレはその尾に掴まり、マウンテンタートーを見下ろしている。
『バカ上だよ!!』
ソンヤの指示で機関銃の銃口が空を向いた。
飛び出す弾をネコは宙返りしながら、じつに滑らかな起動を描いて回避していく。弾はネコを追いかけ、マウンテンタートーの頭に被弾する。
『何やってんだ!!』
苛立ちを滲ませるソンヤの声。その瞬間、マウンテンタートーの頭から再び姿を現したネコから雷が降ってきた。ソンヤはそれに気付き回避したが、反応が遅れた近くの悪魔達は感電し、次々に倒れていく。
『ほう!これは予想外だ!』
「じゃあこれも予想外だな」
『!!』
悪魔が振り返るよりより先に首に黒剣を滑らせる。だが、黒剣は首に届く瞬間、突然割り込んできたモノによって防がれた。
「なっ!?」
『セーフ』
それは仲間の悪魔の死体だった。ソンヤは尾で近くの仲間の体を持ち上げ、あろうことか盾にしていた。
剣が深く突き刺さり抜けない。
『お返しだ!』
盾にされた悪魔の服から突然剣が伸びてきて左肩を掠めた。剣が抜けるのが遅れて避け損ねた。
すぐさま距離をとる。
『さーてさて、じゃあ準備も出来たし、俺と踊ろうぜぇー』
ソンヤは剣に付いた血を舐めとる。すると、ソンヤの身体がボヤけ始めた。
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