第397話 戦場へ.9

オレ、ライハ・アマツは信じられない光景を目にしていた。

動物が次々にルツァに変質していく。勿論動物のままの奴もいるが、ルツァ・ラオラの変化に釣られたのか次々にルツァが発生している。


今のオレの心境は。


「えらいこっちゃ」


である。


オレの所為なのかは全く分からないが、ひとまずネコと共にルツァを狩って狩って狩って狩って狩りまくる。

それにしても数が多すぎではないか?

目に入るだけでも軽く20。内襲い掛かって来ているのが5。ビュンと頭上を鉤爪が素通りする。すぐさま黒剣で薙ぐと人の胴体と牛の胴体が真っ二つ。


迸る電撃、飛び交う氷の塊に、応戦するように炎と水と岩の柱が乱立する。いわば地獄絵図だ。


正直ね、作戦全部吹っ飛んでいた。

忘れていた訳じゃないけど、目に入ったオレ目掛けてルツァが総攻撃仕掛けてくるもんだから、反撃開始の合図が上げられない。上げられないという事は仲間達が助けに来られない。つまりオレに助けがないという事は休憩なしで戦い続けなければならない。

ルツァは絶えなく沸いてくる。


この状況知ってるぞ。

嫌というほど味わったぞ。

あの空間で。


「ニックさんのエンドレスデッドエンド修行パート2かよ!!!もう嫌だあああ!!!!」


『ライハ発狂は後でやってよ忙しいじゃん』


「知っているううううう!!!!」


あの時はニックの高等魔法によるゴーレム召喚、ガーゴイル召喚による全力魔法攻撃。フリーダンの魔法によるニックの魔力強化。それによって魔法が通常の3倍以上になってるせいで一発喰らうだけでも瀕死になる。瀕死になったら即フリーダンの秘術によって巻き戻されて再スタート。キレても泣いても許してくれず、いっそ殺せと叫びならば死ねと良い笑顔でエグい連携技を繰り出しオレの心に深いトラウマを植え付けた。


アウソ君。前に君が修行でキリコさんにボコ殴りにあってトラウマを植え付けられたと話してくれた事ありましたね。あれ、笑ってすみませんでした。実際に味わって分かりましたよ。これ、笑い事じゃないですね。


『おいこら現実逃避するな』


「はっ!ヤバい飛んでた」


それでも剣を奮っているってことは体が覚えているって事なんだよなぁとしみじみ思う。


人体の不思議。


「どうりゃあああああ!!!!」


狼煙銃を取り出せないから、飛んできた火の玉を魔方陣で空へと弾き上げる。

どうかこれで作戦開始の合図が伝わりますように!!!


『これで来なかったら笑えない?』


「おいやめろ不吉なこと言うな」


冗談でも言うな。


『連絡があったのは此処か!!!』


『侵入者居たぞ!!!ぶっ殺せえええ!!!』


「!!!?」


『うげっ!!』


視界の端から悪魔達が大量のルツァを引き連れやって来た。


今度は羊か。マジ勘弁してくれ。

















ルツァを引き付けている間に侵入して、悪魔の殲滅を頼まれたのだが、隊長の合図がない。

作戦だと、ルツァを引き付ける際に狼煙弾を打ち上げる手筈なのだが、いくら待っても上がらない。


「本当にあがるのか?」


ドビアスが待ち疲れて馬の上で気が抜け初めている。


「上がります!!」


「……上がるよ」


「ラビ副隊長なんで若干不安げなんですか!?」


遊撃隊第2班班長のフィランダーが拳を握りしめている。いつからこいつこんなに熱い奴になったんだっけなとラビは思い返したが、初め半泣きで付いてきていたのが気付いたらこんなんだったので、恐らく素質はあったんだろうと思われる。


「もしくは上げられない理由があったりとか」


「………例えば?」


しばらく考え、なんとなく可能性のあるものを口に出した。


「既にルツァに取り囲まれて狼煙銃を取り出す暇すらない、とか」


「まさか!あの隊長ですよ?そんなへまはしませんって」


「あのー、なんかあっちの方凄いことになっているんですけど」


隊員の一人が、予定地とは違う方向を指差す。そちらに目をやれば、火の玉や岩、雷、水、光の弾、氷の塊がまるで空の果てまでも飛んでいかんとばかりに打ち上げられていた。なんだあれ。悪魔の新しい攻撃か?


「あれ、もしかして隊長の合図だったりしませんかね?」


「まさかぁ」


「いくら隊長でもあんな数を相手にしているなんて……、ラビ副隊長?」


「なんだ?」


「ルツァが降ってきます」


ラビが空を見ると、空を舞っている黒い塊がラビ達のすぐ近くに降ってきた。ルツァは羊型で、胴体の毛がところどころ焼かれて何かの文字になっていた。


「なんて書いてあるか読めるか?」


「……GOと読めますね」


まさか本当にあれは隊長の合図だったのか。


「突撃いい!!!!」


「遊撃隊に続けええ!!!!」


ラビ副隊長の号令と共に遊撃隊と守備隊は敵陣地に向けて駿馬を走らせ初めた。

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