第384話 隊長!.5

そんな感じで次々と種目をこなし、途中昼食休憩を挟みながらもほぼ全ての試験が終わった。


「死んだ……」


「大丈夫まだ生きてるよ」


壁に寄りかかりずり下がっているラビは見た目通りぐったりしていた。どうやら魔力と体力の同時酷使がキているらしい。

辺りを見渡せばラビと同じく転がっているハンターもいる。


一年でだいぶ変わるな。本来ならオレもラビの様に転がってたのに。いや、ラビよりも酷いかもしれない。


「ライハは余裕そうだな」


「伊達に修羅場潜ってないよ」


何度も何度も死にかけたし。


「さて、最後の使い魔っての行ってくるよ」


「いってらっしゃい」










会場に着くと魔術師の格好をした奴ばかりだった。場違いの様なオレを魔術師達が気付いて小声で何か話しているが、詠唱見取り対策での癖か、口許をしっかり手で隠しているのでなにを言っているのかは分からない。


(魔術師には見えないと言っているのか? それとも魔力の……、あ!)


初期のニックを思い出した。

だが、あのときとは違いちゃんと気配を隠している。それこそニックにボロクソに言われながら完璧に隠している。漏れてはないはずだ。


「それでは順に使い魔を見せてください」


「はい」


一番右端の人が立ち上がる。使い魔は鳥型で尻尾が蛇。見たことの無い魔物だ。精霊か?


「リルスピリトのガードン。特技は結界です」


「見せてもらっていいですか?」


「何かを投げて下さい。ガードン」


リルスピリトという魔物、ガードンが尻尾の先を前に向ける。検査の人が近くの書類を押さえる重りを投げ付けると、魔術師に当たることなく弾かれた。


ああ、こんな感じでやればいいのか。


そうこうしている内に順番が来た。


「次」


ネコと呼ぶとフードからネコが立ち上がる。それだけなのに会場がざわついた。しまった、はじめから出しておけば良かったか。


「種族は不明で、ネコと言います。基本魔法を撃つ以外は何でもできます」


「どういうことかな?」


遠回しに実演しろと言っている。


「ネコ」


『はいよ』


どよめく。だが、いちいち反応していたらキリがないのでネコに好きに特技を見せてと言った。なのでネコはウキウキと羽を生やして飛び回り、尻尾を器用に鞭のようにしたり、巨大化したりした。ただしネコもどれくらい手を見せていいのか弁えてるので、奥の手は隠した。勿論新技もだ。能ある鷹は爪を隠すって奴。


「以上です」


「あ、ああ。ありがとう」


『ライハどうだった?良かった?』


「良かったよ」


虎サイズのネコを撫で回し、ゴロゴロ言いながらサイズを変えてフードに戻った。


「これで全ての項目は終了です。寮の人は18時に食堂へ、外に泊まっているものは翌日8時に集合してください」


これで終了か。

18時には時間がある。ラビと合流して先ほど渡された資料でも読むかな。







□□□






軍施設の会議室にて、軍の教官や司令官達が集まりハンター達の能力を書き留めた資料に目を通している。その顔は険しく、中には頭を抱える者もいた。


「……ギルドを通して、ハンターの特性や能力を把握していたつもりだったが……、いざデータにすると、我々とは大違いですな」


「ああ、まさかこんなにも能力が逆だとどう扱えばいいのかわからん」


資料にはハンター能力の平均値と軍の能力の平均値。そしてギルドからもたらされたハンターの主な試験の内容である。


「これは全てのハンターが?」


ギルドから派遣されてきた職員が「いえ」と言う。


「ハンターには二種類います。ギルド所属のハンターとフリーハンターです。ギルド所属のハンターは個人ランクとパーティーランクを必ずしも受けなければなりませんが、フリーハンターは基本個人ランクの試験しか受けません。個人ランクが高ければ依頼が受けられるので」


「……なるほど」


魔法を使えるものはごくわずか。馬に乗れるのも半分ほど。だが、剣術、体術、走るのと、障害物走はぶっちぎりで、軍とは違うなと思った。そしてそんな中でも群を抜いているのが。


「ライハ・アマツか」


「見た目は煌和国人に似ているが、出身は不明。

あのエドワードがやたら推してくるのは珍しいなと思っていたが……」


「何だったか、昔鬼神と呼ばれた女がいただろう。アレの弟子らしい」


「道理で身のこなしが違うと思ったら。ならば多少無理をさせても問題ないか?」


「それが本人が戦闘狂だから壊れない部下を寄越せと言ってきていて」


「はははは、久しく見てなかった狂人だな。で、どうだ?相応しいのはいるか?」


「………………なんと言うか、不思議な事に募集をかけたら軍の方から応募者が多数出てまして」


「ほう?」


「それも若い優秀なのばかり。条件は過酷なはずなんですが?」


募集の紙を見ても正直メリットが見当たらない。

なのに軍から山ほど応募が来る。


「ハンターは確実にできるものしか取らないですからね。怪我したら即死ぬので。支えがある軍の方、血の気が多い方の何かに火をつけたのではないでしょうか?」


「……ハンターもだが、若い奴の考えもよくわからんな…」


「取り敢えず、応募してきた書類を纏めててくれ。後でまとめて報告する」

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