第378話 『対話』.5
気が付くと、猫が目の前にいた。
「戻ったか」
ニックが座り込んでこちらを見ていた。その顔は疲労が滲み出ていた。フリーダンもホッとした顔で、壁に寄り掛かっていたナナハチやノノハラもどこか安心したような顔だった。
『ネコ置いていかれたし』
「そうなの?」
不貞腐れたネコにどういうことか訊ねれば、どうやらオレだけ消えて、ネコがその場に取り残されどうすればいいのか分からずずっと待っていたのだという。
「失敗したかと思ったわ。なかなか帰ってこないから」
「え、そうなんですか? どのくらい」
「軽く二刻だ。そろそろナナハチに中止の方法を訊こうかと思った。通常は半刻程らしいから」
ナナハチがやってくる。
「何でこんなに時間がかかったんですか? 悪魔は鎖に囚われて、そのまま一方的に契約すれば良かったじゃないですか」
「?」
鎖に囚われて?
エルファラはどうみても鎖に囚われてはいなかったな。もしかして天井から下がった布がその代わりとか?いやいやそんな雑な。
「いや、ありませんでしたよ? それに契約もちゃんと結んだし」
「は?結んだって、もしかして対等にですか?」
「多分対等……、割りとあっさりと結んだんだけど。逆に怖いくらい」
今思えば笑わしたから対価が軽くなるって言うのが変だ。そこで、良からぬ考えが浮かんだ。
もしかして、エルファラの復讐相手、相当ヤバイやつなんじゃないのか?しかも奴らって言ってたな。あれ?良く考えたら力のある奴でも中々入ってこれないとか言ってなかったか?そういえばオレ割と色々流されて結んだ気がする。
今更ながら何であの時にちゃんともっと質問をしていなかったのかと後悔した。
あれだ。なんか始めあいつ泣いてたし、子供の姿だからちょっと油断してたような気がする。
「………お前、もしかして流されるまま契約しただろ」
「…………………うん」
頭思い切り殴られた。
「バカじゃないの!?悪魔は心理に訴えかけて相手を誘導することに長けてんだぞ!!大型ドラゴンみたいなのが現れるかと思って身構えてたら小動物が出てきて肩透かしにあって、なおかつ乗せられたって感じだな!そうだろ!?」
バレてる。
フリーダンも顔を押さえて何も言わない。それが逆に辛い。ノノハラにも、呆れ顔をされ、ネコには憐れみの目をされた。
「いや、だって!前々から夢で見てたやつだから、なんか、いざ現れたらなんだお前かよってならない?」
「そんな前から呑まれ掛けてたのかよ」
「あれ呑まれ掛けてたの!?」
そんなのわかるかい!!
「まぁまぁ、もう、結んだのなら仕方ないわ。いや、私達の説明不足だったのも原因だし、そこはもう良いわ。で、えーと。一応協力してくれる事にはなったのよね」
「はい。しっかり聞きました」
代償無しで無双ができると。
夢にまで見た無双だ。この世界に来て全くの無縁だった代償無しの無双だ。
「何となく、嫌な予感がするから、ちょっと試しに此処で練習していきましょう」
「甲殻が出るかみたいな事ですか?」
「それも、ある」
「?」
良く分からないが、ここなら誰にも迷惑を掛けないというのなら練習していこう。
儀式の後片付けをして、威力が分かりやすい雷の矢で試すことにした。
雷の矢をつがえ、誰もいない壁に向かって軽く射った。──つもりだった。
──ズドゴォォンンン!!!!
「!!!!!?」
通常のサイズを射った筈なのに、目の前の壁が消えた。目の前に広がるのは真っ黒な空間である。
瞬間的すぎて何が起こったのかも分からない。
「オーバーキル過ぎる。……あれ?」
ふらっと足元がふらついて座り込んだ。なんか凄い怠い。甲殻は出なかった。いつもならあんなの射ったら一発で出るのに。その代わり手がブルブルと震えていた。
「………………やっぱり」
後ろでフリーダンが呟いた。
やっぱりって何がだ?
「ライハくん、貴方の体に起こっている事を説明するとね、魔力の出力に体が追い付いていないわ」
マジですか。
「このままじゃあ魔力が尽きるとか尽きない以前に体が壊れる可能性があるので──」
ぽん、と、フリーダンの手が肩に置かれる。
「此処でしばらく修行よ」
──え?
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