第357話 剣を奮え.6

魔方陣から小さな黒い点が空を覆っていき、目を凝らせば黒い点と共に赤い色が次第に大きく肥大していった。


「あれまさか火矢か!?」


「嘘だろデケェ!!」


「待避待避!!!」


「やめろ動くな!!!」


ニックの杖が青色に輝くと、杖の先から吐き出された青い光が次第に形を変え、投網が広がるように青色の膜が大きく大きく視界を覆う。視界で確認出来るほどに大きくなってきた火矢が膜に接触する。


ボン!と上空で白煙が昇る。

良かった、助かった。と思った。が。


「あ、しまった」


ぼそりと呟いたニックに皆の視線が集まった。


「!?」


火が消えた矢が降ってきた。


数は減った、火が消えた矢は横になったり回転したりと、飛んできたというよりは落下してきたって感じだが。

まぁ、とにかく、危険は去ってなかった。


「うおおおおおおおおおおお!!!!!」


全力で避けたり弾いたりしてなんとか全員無事だった。


ノルベルトがニックに向けて言う。


「助けるなら最後までちゃんと助けろよ!」


「使うやつ間違えたんだよ!ごめんなさいね!」


「良かった。俺ちゃんと生き残れた…」


胸を押さえたラビの肩を良くやったとガルネットが優しく叩いていた。ごめんな、オレも余裕なくて。


辺りを見回すと地面にいくつもの矢が突き刺さってたり転がったりしている。それは結構広範囲に及んでいて、朝方避難していった人達が心配だ。一応結界の魔方陣札を渡してはいたけど、ちゃんと活用出来たかな。


「フゥー!!これは良い運動になりそうだね!!」


楽しそうなアレックスの声に前を向くと、山脈のほうから大量の黒い影がこちらに向かって押し寄せてきた。


「…………」


ふと、ラビを見てみると真顔だった。

「あ、死んだ」みたいな事を思っているんだろうな。


「ラビ君。君は皆の駿馬を連れて安全地帯まで逃げるのが仕事です」


なので、ラビに出来る安全な仕事を与えると、途端表情が戻った。


「よし任せろ、ちゃんと皆の駿馬を守り通して見せるぜ!!へい行くぜ子馬ちゃん達!俺様に続けえ!!!」


そうしてラビは駿馬を引き連れて安全地帯まで逃げていった。その速度は今まで出した中で最高速度だった。


「いつもあれくらいやる気があれば強くなるのにな」


「いいよ、人には向いてる物がある」


ボソリといったノルベルトにラビのフォローを入れる。実際、裏方をしてくれているラビに助けられていることも多い。


「それより今は目の前のあれを何とかしないと」


黒剣の柄を握りながら言う。


『ネコ、今日はどうしようかな?』


「数が多いので広範囲に攻撃してくれるとありがたいです」


『じゃあ最近思い付いたやつのテストも兼ねてやってみよう!』


「何するのか知らないけど巻き込まないようにね」


『はーい』


肩から降りて巨大化する。

今回のフォルムはチーターの様にスリムボディだ。


「ライハ、ライハ」


「なんですか?」


ニックがやってくる。


「今回は数が多いから、多少の無茶は認めるが、もし度を過ぎて悪魔化が悪化したら神聖魔法を狙い撃ちして治療をするから、安心して戦ってくれ」


「全然安心できないですニックさん」


「加減をすれば大丈夫だ」


ニッコリ顔のニックさん。

これ、もう治療を目的としてないですよね。サドの欲求を満たそうとしてるよ怖いな。


「それじゃあ!!人間側の反撃といこうか!!!準備は良いかい!?」


アレックスがジャスティスに大量の魔力を籠める。


それぞれの武器を取り出し、前を見据えた。


「けして無理はせず、生き残って勝利の祝杯を上げよう!!!行くぞおおおおお!!!!」

















僕たちはギルドに貼られた依頼を見てリオンスシャーレ北部の異変とやらを調査しに来たパーティーだ。


凄腕のパーティーは皆空飛ぶ護送船で大陸の東側に行ってしまっているが、万が一に備えて残ったパーティーは治安を守るためにコツコツと頑張って仕事している。


今回は依頼を見て、最近増えてるルツァの調査に来た。調査は戦わなくて良いから弱くても逃げ足が早ければやっていける良い仕事だ。


付かず離れずで観察し、襲われれば逃げる。そしてギルドに報告すれば後は戦闘特化のパーティーに引き渡す。


今回もそんな感じで軽い気持ちで目的地に向かっていた。


「? なんだ?」


前方から大勢の人がやって来ていた。皆服が薄汚れ、怪我をしている人もいる。

旅人ではない。一般人だ。


「大丈夫ですか?」


「おお!援軍ですか!?」


「え?」


あっという間に取り囲まれ、あの人達の手助けをしてくださいと懇願されるが話が見えない。こんなに切羽詰まって何があったと言うのか。


「あの、何かあったのですか?」


リーダーが訊ねてようやく事情を話してくれた。

この人達は北部のホーヤ山脈近くの街の住人で、昨日突然悪魔の襲撃にあったところを、偶然通りすがりのパーティーに助けられたのだと言う。


襲われているのは南だ。なんでこんな北なんかにと思ったが、襲われたのは事実である。


その人達はあっという間に悪魔を撃退し、今は近くの街の様子を見に行っているらしい。


まさか異変とやらはソレなのか?


半信半疑に話を聞いていると、突然空から鐘に似た音が響き渡り、街の人達が怯え出した。悲鳴をあげ、空を指差す人達。なんだとつられて見てみたら、大きな魔方陣と、そこから黒い物が大量に放たれていた。


なんだあれはと、動くことすら出来ないでいると、突然空を青色の膜が覆い、その黒い物の威力を殺した。だが、半分ほどは突き抜けこちらに降ってくる。

思わず血の気が下がると、街の人達が何かを空に向けてかざす。


すると、光の網がドーム状に展開し、黒い物が弾かれた。


降ってきたのは17本程だが、どれも凶悪な形をした矢だった。


一般人が魔方陣札を持って、なおかつ扱えたことにも驚いたが、更に助けてくれた人達が心配だから様子を見て助けてほしいとまた懇願された。


先ほどのが魔法なら、確かに前線に誰かいるのは確実だった。


「分かりました。様子を見てきましょう」


手に終えないようならギルドに戻って増援を頼もう。集まるか分からないけど。


そうして光が放たれた方に進んでいく途中、遠くの方にたくさんの駿馬と爬竜馬を引き連れた旅人が凄い早さで南の街に向けて走っていってた。

一人であんなに駿馬を連れているなんて、さっきいっていたパーティーの一人が助けを呼びに行ったのか?


そう思いながら更に進むと、前方で大爆発が起こった。


「……………うわ、これダメなやつじゃない?」


視界一杯の角が生えた悪魔達を小数で薙ぎ倒す化け物達パーティーを確認できた。

五人と一匹だが、善戦しているように見えた。だが、悪魔は限りなく山から沸いてきているようにも見えた。

今は平気でも、その内数で推される。


「きゅ、救援要請をしないと!!」


僕たちが参加しても秒で死ぬ。


すぐさま近くの街に救援要請をするべく、本気で駿馬を走らせたのだった。


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