第356話 剣を奮え.5

日が暮れ、手当てを完了した村人達がニックが張った大型の結界の中で焚き火の周りに固まって身を寄せあっている。その端の方、光が殆ど当たらないところにオレはニックに追い詰められていた。


「おら、腕をだしな」


それは正に悪魔の宣告だった。


「く…うぅー……」


とても嫌だったが、隠して逃げてもどうせ後で寝ている間に神聖魔法を掛けられるだろう。どちらにしても掛けられるならばと、泣きそうになりながら手袋を取って差し出した。


「甲殻広がってんじゃねーか!!」


「痛い!」


ゴツンとニックの杖が頭に当たって鈍い音が出た。


「ったく。気を付けろって言っただろ。動くなよ」


神聖魔法で甲殻を消してもらい、半泣き状態で街の中の片付けに行った。街の人達は突然の襲撃で体の震えが止まらないらしく、強面の大男も涙を流しながら片付けをしていた。


ノルベルトは日が暮れてから戻ってきた。どうやら逃げ出した駿馬を見付けて捕獲してくれていたらしい。

ラビはニックと協力しあい手当てに回っていた。


「これで全部かな」


悪魔と人間と分けて並べていく。


ここの世界は基本土葬だ。

そこで翌朝になったら墓を作ることになった。


「悪魔は?」


「火葬だな。土葬だとたまに甦るやつが現れるらしい」


「へぇ」


初耳だ。どうしよう。ドルイプチェのジョウジョは知らんけど、エルトゥフの悪魔達はそのまま放置してきちゃった。

甦ってないだろうな。








街の人達の約2/3が死んだらしい。


話によると、悪魔達は突然鳴り響き出した鐘の音と共に現れて、街に上空から火矢を射ち込むと、次々に侵入して来たのだという。


兵士は真っ先にやられ、ハンター達は南に行ってしまっているため為す術もなかったのだとか。嫌な予感が的中してしまった感じだな。


「これから一体どうすれば……」


深く項垂れる。


これだけ街が破壊されていれば、ここには住めない。だとすれば避難民として移動しなければならない。だが、オレ達は着いていくことはできない。この街のように近くの街も襲われている可能性もある。


そこで少しでも役に立てるようにと結界の魔方陣札を出来る限り作って渡した。


朝、日が登り気温が上がると、墓を作り祈った。

そして街の人達がまだ使えるものを集め旅支度を整えている間に、悪魔達の骸に火をつけた。


火はあっさり燃え広がって、悪魔の躯を灰に変えた。









街の人達が南の街に向けて歩いていく。


その背中を見送り、オレ達も駿馬に跨がり次の街へと向かった。


地図を見ながら進むが、そこはもう誰も存在しない死の街になっていて、そこを中心に村も散策してみたが誰もいない。



ーーカーン……、カーン……。



「!」


空に響く音。


固い金属片を叩く音が繰り返し繰り返し鳴り響く。


「おい、街の人達が言ってたやつって、これか?」


音の方向、北の山脈の上に大きな魔方陣が浮き上がっていた。

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