第355話 剣を奮え.4
そっからは、誰かが仲間を攻撃しているという情報が入ったらしく、悪魔達が大人数で襲い掛かってくるようになった。
そうなると、ラビは危険だと判断し、光彩魔法で姿を消しつつ襲われている人を助け出し、そのまま姿を消しながら安全地点まで連れていくと出口を指し示して逃がすという避難活動に勤しんだ。
「おお!?」
地面が激しく揺れ、音の方向を見れば煙が上がっている。
何かに引火して爆発でもしたのかな。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「うんうん。お礼は良いから早く逃げて下さい」
妹を背負ったお姉さんが何度もお礼を良いながら走っていく。
オレの足元には悪魔が三体。取り囲んで危うくって所を救出出来た。ラビは先程逃げ遅れた子供達を引き連れて出口まで案内しに行っている。大人ならなんとか逃げ切れるだろうが、子供だけは流石に無理だろう。
「ふう。だいぶ減ってきたな」
顔に飛んだ返り血を拭いながら辺りを見回す。そこには悪魔と人間の骸がたくさん転がっている。悪魔はオレが倒したものだから斬られたり撃たれたりで傷口は綺麗だが、人間の方は全て無惨なものだった。男にしても女にしても。
どうしたらこんなやり方を思い付くのか。
以前なら一目見ただけでも吐いてしまっただろうその光景を、今はなんとか耐えている。本当は頭が軽い現実逃避をしている可能性も否めないが、人間に対しては悲しみが沸く。悪魔に対しては特になんとも感じない。やはり頭の中で“敵”と認識しているからか。
血を拭い終え、先程から感じる腕の違和感に目を向けると、やはりというかなんと言うか、甲殻が出来始めていた。
魔力操作で進行速度は遅いものの、魔法を使えばジワジワと出てくる。今回は出来るだけ魔方陣以外のを使わないようにしていたけど、あの壁にめり込んだ悪魔の時に放ったやつで出てきてしまった。
(ニックに見付かると怖いな)
ポケットに入れたままだった手袋を嵌めて隠した。
『ライハ!向こうもあらかた片付いたよ』
「よし、じゃあ灰馬を探しつつ見回りしていくか」
『うん』
ネコと荒れた街を歩いて回る。
空を見ると、鳥に乗った生き残りの悪魔が逃げていくが、それを追い掛けることはしない。今から飛んでも追い付けないだろう。それほど全力で逃げていた。
「……角さえなければ人間に見えるのにな」
近くに転がる悪魔の死体を眺める。
角と牙がある以外は本当にただの柄の悪い人間と大差無い。悪魔の一人を捕まえて情報を聞き出そうと思ったのだが、彼らは一切話すことをしなかった。それは教えられていないのか何なのか分からないが、隙を見せれば殺そうとし、弱いものを全員で攻撃しようとしたり──ラビは察知してすぐさま姿を消して隠れたが──言葉巧みに交換条件を出してくるなど。うん。結局ダメだった。
姿を見せれば襲ってくるし。
拷問とかしたら話す可能性もあったけど、ちょっとそこまで出来ない。殺す事は出来るのに、変だな。
「今助けますよ、動かないで下さい」
瓦礫を持ち上げ、閉じ込められていた人を救出する。
外に出て辺りを見回すと泣き崩れたり嘔吐したり絶叫する人もいたけど、出来る限り見付け出して、動けない人はネコの尻尾で包み運んだ。途中二度ほど生き残りの悪魔の襲撃があったが、退けることが出来た。
街の外に出ると、鳥型の魔物が転がっている。それも10羽以上。
そして、突然何もないところからたくさんの街の人とニックが姿を現した。
「悪魔は?」
「あらかたやったとは思うけど、取り敢えず逃げ遅れた人達を回収していた」
「わかった。彼らは俺が隠しつつ手当てをしておく」
引き渡して街に戻る。
するとハンマーを引き摺ってガルネットが歩いてきた。
「ガルネット」
「あれ、ライハ?ラビは?」
「今別れて行動していて。そっちこそノルベルトさんは?」
「いやー実はこっちも気付いたらはぐれてて、今探しているんだ。駿馬も含め」
そっちも逃げたのか。
まぁ、戦闘に巻き込まれて怪我されるよりは全然良いか。
「アレックスは見付けたんだけどな」
「何処ですか?」
「あの、さっき爆発したところ。今慌てて消火してる」
「あー、あれアレックスなの。ニックかと思ってた」
「ニコラスもたまにやるけどね」
苦笑するガルネット。ニックもたまにやるのか。
「じゃあちょっと見回りがてらノルベルト探してくるよ」
「オレも駿馬探しながら救出してきます」
そんな感じで街をネコと隅々まで捜索し、人を助けながらぐるりと回り、日が暮れる頃ようやく生きている人達の回収が完了したのだった。
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