第344話 魔力操作.1

結局、ラビは押し負けて次の街で駿馬を購入し、ノルベルトとガルネットに猛特訓をさせられていた。その間、暇なのでオレはニックとアレックスに拉致され、稽古に付き合っていた。


「ちょっ!!待って待って!!早すぎるんだぞ!!」


『えー、そんなに早くないよぉ!』


巨大化したネコがアレックスに襲いかかる。それに対しアレックスは素手で相手をする。今回の件でアレックスの銃抜きの戦闘能力が原因だとして、ネコとガチバトルしてせめて避ける練習をしてもらっているのだ。


そしてオレは。


「ちっがーう」


「だぁぁぁぁ…」


ニックに魔力操作を教わっていた。


無意識の制御リミッターがぶっ壊れているのなら、自分で制御をするしかない。というわけで、今魔力だけを出して魔法に変換させないようにして言われた動きをするように練習をしている。細い糸状に変化させて、それを針金で作った輪にどこもぶつけずに通す。


感覚的には、聞き手じゃない方へ長いピンセットで糸を持って、裁縫針の穴に通す程に難しい。


「はいちがーう。お前、意識どっち向けてんだよ、魔力に向けろってんだろ、お前が今体の方に意識残しているのしってんだからな。慣れるまでは魔力に向けろってんだろ」


「ニックさん、向け方わからないってかどうやったら向けられるんですか。なんか感覚でも教えてくださいよ」


「…魔力ってのは体の一部だ。お前は目を開けてないと手を動かせないのか?」


「動かせますけど」


「魔力も同じだ。魔力と思って動かすな、手だと思って動かせ」


難しい。

前は凄く細かく操作できたのに、制御リミッターが壊れるだけでもこんなにも出来なくなるのか。ああああ!!!!と叫んで投げ出したくなりそうだ。


それでも何度も何度も繰り返し、ようやく出来た。


「じゃあ次はこれ」


と、ニックが渡してきたのは知恵の輪のようなもの。

硝子の球の空いた複数の穴。中はくねくねのパイプになっている。


「ぶつからずに全て抜けろ。ぶつかったらダメージ食らうように細工したから気を付けろ」


「なんつーイライラ棒だ」


そんな感じでどんどんグレードアップしていき、ついには真っ黒な球体を渡された。


「視覚さえも封じに来たか」


「粒子モード使ったらぶっ飛ばすからな」


「へいへい」


とはいっても、難しいものは難しい。さっきまでは視覚を駆使していたが、それすらもダメだと正直達成できる想像もつかない。しかも当たったら神聖魔法が魔力を通じてくる。


「ニックさん試しに見本見せてください」


「見本?」


「一回で良いんで!」


手を合わせて懇願すると、球体を手に取った。


「しかたねーな。よく見とけよ」


ニックは片手に持った状態で魔力を掌から放出すると、それが細い糸へと姿を変えていき、ひとつの穴からもう一つの穴へと出てきた。


「中見てみろ」


言われた通り粒子モードで見てみると、一ヶ所も触れずに通っていた。


「次は目を閉じて」


一回魔力を霧散させると、今度は目を閉じたまま同じことをやってのけた。


「こんな感じだ。イカサマはしてない」


「………、なんかコツでもあるんですか?」


「魔力に意識を移せ。狭い洞窟を抜けるように操作していけば出来る。これが出来るようになれば制御が出来るようになって、更にギリスの初級魔法を教えられるようになるからな。一石二鳥だろ?出来なかったら魔法を使わずに戦うように頑張るしかないがな」


球体が返される。


「じゃあオレは駿馬達の世話をしてくる」


それだけ言うと、ニックは行ってしまった。


「洞窟を抜けるように、ね…」


ニックのアドバイスを考えながら、もう一度球体に魔力の糸を差し込んだ。

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