第329話 同じ穴の狢.13
弾ける光、耳をつんざく悲鳴と共に死体の山がドロリと溶け、一瞬花魁の姿になったかと思えば、あの異形な狸へと変化していった。
剣は腹を貫き、肉が焼ける臭いが漂う。
『ゲヘッ……ッ!』
ジョウジョの口からネコの欠片が飛び出し、それを掴み取る。
『~~ッ!!』
一瞬意識が欠片に向かった隙を突かれ、ジョウジョはまた女の姿になると回し蹴りを放ってきた。脇腹を掠める蹴り。履き物の先が刃物化しており、服の先が切れた。
欠片をまだ無事なポケットへと仕舞うと、黒剣をジョウジョの脚へと向けた。
「!?」
視界の端から黒い物が大量に伸びてきた。先は尖り、高質化している。ジョウジョの角だ。
黒剣の軌道を変え、角を切り裂く。だが、角はあっさりバラけて落ちた。その向こうでジョウジョが逃げようとしている。
異様に早い。
屋根を越える前に、追い付けるか?
その時、知らない声が嘲笑うように言った。
「ざんねんでしたー!!そっちは封鎖済みよ!!」
次の瞬間、ジョウジョが屋根に飛び上がろうとしたが、途中何かに弾かれていた。
『なんで!?』
壁というよりは、金網に近い構造の清らかな魔力がここら一体を覆っている。神聖魔法の結界か?でも、でかした!
網に接触した所が赤く腫れ、今まで人のことを小バカにしていた表情は既に無く、焦りと驚愕の表情を浮かべながら、向かってくるオレに出来る限りの攻撃をしてきた。
焦りの為か攻撃が粗い。
全ての攻撃をいなし、成す術がなくなったジョウジョは、手を下におろし静かに立っていた。
そして、また笑みを浮かべる。
『良かったねぇ、私を殺せて。嬉しいだろ? さらば美しい彼の者よ、これは忘れるんじゃないよ、例え姿が違えど、所詮悪魔と人間の本質なんてたいして変わらない。自分の都合で相手を殺す、同じ穴の
体制を低くしジョウジョが全ての魔力を右手に集め突っ込んできた。
ジョウジョの爪が左の頬を切る。
だが、それよりも先に黒剣が深くジョウジョの胸を貫いていた。赤い血を吐き出しながら、ジョウジョは残された力でオレの頬に手を添えた。
『“受け取ったな”。…先に地の底で待ってるよ……』
ジョウジョの体から力が抜け、胸から黒剣が抜け落ちて地に倒れる。女の姿から狸の姿へと変わり、そして動かなくなった。
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ」
無意識に呼吸を止めてたのか、息が荒い。
後方で人が倒れる音がして振り返ると、ゾンビ化していた人達は全て倒れ、オレを攻撃していた人達以外もが信じられないような顔をしてこちらを見ていた。
「…………悪魔が悪魔を殺した」
「…同士殺しか、どうする?」
「どうするも何も、捕まえるに決まってんだろ!!」
…ダメか。
この姿がいけないとわかってはいるが、やっぱり辛いな。
「ひとまず逃げるんだぞ!!すぐに追い掛ける!!」
「結界は解除してあるわよ!早く行きなさい!」
「あとの事はまかせろ!!」
アレックスが取り押さえていた男達を投げ飛ばしながら反対方向へと逃げ出した。数が三人から五人に増えていたのは抵抗を止めなかったからか。
そして先程から聞こえる声は誰だ。
目を向けると、ラビの近くに身長の高い女性が掌ほどの黒い玉を地面に投げ付けていた。地面に当たった衝撃で玉から白い煙が大量に吹き出し、あっという間に視界を覆う。
煙幕か!誰か分からないけどありがたい!
オレはすぐさまその場から逃げたのだった。
暗い路地裏に身を隠し、深くフードを被って角を隠す。
光彩魔法具、持っておけばよかったな。
あの時は壊れるといけないからってアレックスに渡したけど。色々失敗だった。
「ハァーーーー……」
大きく溜め息が洩れた。
あと、なんか傷が治るのも遅い。神聖魔法のせいか。左目激痛だし、てかあまりにも痛すぎて目が開けられない。
体の方は防刃繊維のお陰でまだそんなに深くなかったのが幸い。脚とか腕はそれがなかったからいズタボロだけど。流石に火矢は防げなかったな。隙間を縫ってきやがった。
(……よかった。取り戻せて)
ネコの欠片。
しばらく眺めまたポケットに仕舞う。
「いたか?」
「いや、いない!」
「路地裏もくまなく探せよ!」
「…………」
声が近い。
ここもそろそろヤバイかな。
壁に手を付きながら、オレは移動し始めた。
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