第323話 同じ穴の狢.7

「…勇者?」


「勇者」


「誰が?」


「オレ」


「突っ込んでいい?」


「いいよ」


「どうしてこうなった!!!!」


スパァンとラビが自分の太もも勢い良く叩いた。そしてアレックスは口を閉じて憐れみの目を向けていた。


「なンでやねん!!!なんで勇者なのに見た目悪魔になってんの!!?お か し く な い!?全くの正反対やん!!!」


ラビが鈍り全開で突っ込みを入れてくれた。


「あとな!!お前の境遇何かと理不尽すぎんねん!!なんやねんそのシンゴとかいう奴!?意味わからんわ!!呪いの装備ーは、まだいい!ネコだったからな!!でもっ、…あー…もう。ハァ…」


「大丈夫?一旦水飲む?」


「いや、平気だ。てかなんでお前はそんなに何でもない顔してんだよ。お前のこの一年おかしいぞ」


「んー、でもある意味シンゴのおかげでカリアさん達や君らと出会えたようなもんだからな。感謝はしてないけどさ。良かったと思ってる」


それに恐らくあのままホールデンにいても、遅かれ早かれ悲惨なことになっていた可能性がある。そう思うと、この姿になったのも、ある意味これから起こる幸福な事の前触れかもしれないし。


でも角は邪魔だから折るけどな!!


「俺さ、どんなことがあってもお前の味方だから、何かあったらすぐ言えよ」


「え、うん。ありがとう」


わりとマジな顔でラビにそう言われるとビビる。


「あ!俺も!俺もだぞ!」


それに負けじとアレックスも手を上げて主張してきた。胸の中が温かい。


「ありがとな」


それならオレは、どんなことがあっても守れるだけの力をつけよう。













角に紐をしっかり巻き付ける。

強度もある、そしてその先にいるアレックスも昨日確り寝て元気一杯。


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫だ!」


だけど、多分物凄く痛いと思うから木の一つや二つ握り潰すかもしれないけれど、それはもう仕方がない。間の狭い木と木の隙間に入り、アレックスの力に負けないように踏ん張る。


「いくぞ!せーのっ!!!」


思い切り角が引っ張られて角の生え際が凄い痛みを訴える。骨が折られそうなそんな痛みに、何だか物凄くアレックスに向けて怒りが沸きそうになった。


やばい。


「ストップストップ!!!」


「どうしたんだい!?」


「コレ無理だ。何か知らんけどアレックスを殴り倒したくなった」


「えぇ…、君が頼んだのに」


「折るのは無理か。じゃあ切るのは?」


と、ラビが自分の双剣を取り出す。既にヒダサソリの毒は抜いてあるから、刺さっても大丈夫と言われた。てか、そんなの塗ってたんだ。


「それでいくか」


引いて駄目なら切る。


しかし。


「ライハ、無理だコレ。ちょー硬い」


「無駄に頑丈だなこれ」


逆に双剣が刃こぼれをしそうになったので断念。角は無傷。

既に手立てがなくなってしまった。


「仕方がない。じゃあこれでも巻いておこう。ちょっと座って」


ラビがオレの角に何か細工を施し、包帯を巻き付ける。そして何やら包帯の上にまた何かを巻き付けた。


「何?」


「色彩魔法、初級の色変えの魔方陣。これで角が白に見えるようになったけど、魔方陣の一部が消えたりすると効果がなくなるから包帯を巻いておいた。で、その上に飾り布。なんか有角族の一部には角を飾り付けるのがいるから、これで包帯を巻いているのも誤魔化せる筈。もし中を見せろと言われても一回くらいなら包帯を外して見せてもイケるかな?」


「おおおお!!」


ラビすげえ!!


「登録証はどうするんだい?人間って書いてるけど」


そこへアレックスが質問。確かに、登録証は誤魔化しようがない。


「遺跡にあった変なの触ったら生えてきたって言えば何とかなるんじゃないか?前、そんな感じで尻尾が生えた間抜けな冒険者がいるって聞いたことがある」


「へー、そうなんだ。……どうしたアレックス」


顔を真っ赤にしてプルプル震え始めたアレックス。しかも何か自分のケツを押さえていた。


「……それ、俺なんだぞ」


「え!」

「え!」


話を聞くと、駆け出しの時、録に調べもせずに遺物を装着したら尻尾が生えてきたらしい。知り合いの魔術師に頼んで消して貰ったが、それまでずっと仲間に笑われっぱなしで過ごす羽目になってたという。今は仲間の一人が面白いと自ら進んで装着しているが、そんな装備が幾つか存在している噂があるので、恥を承知でそういえば見逃して貰える筈と掌で顔を隠しながら言われた。


「なんか、悪かったな。アレックス」


「間抜けな冒険者とかいって、ほんとすまんかった」


そしてオレ達は、トラウマを呼び戻されたアレックスにドンマイとしか声をかけられなかった。

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