第322話 同じ穴の狢.6

一先ず角は無視をすることにして、ご飯を食べることにした。怪我は全て完治し、服もラビが目立つところは縫ってくれたらしい。寒くなってきてるからな、ありがたい。


「そんなに食べて大丈夫か?」


「うん、なんかスゲー腹減ってて」


「3日寝てたからね!3日分回収しているんじゃないかな?」


「うそ、そんなに寝てたの?」


「爆睡だったよ!」


どうりで。

食べても食べても、足りない感じだ。


足の上で子猫サイズになってしまったネコを撫でながら魔力を流している。生きててよかった。寝息をたてているだけだから、きっと魔力が回復すれば起きるはずだ。


「ところで、ちょっとお願いがあるんだけど言いかな?」


「なに?」


アレックスが困り顔でお願いなんてよっぽどの事だろうな。


「魔力と気配を押さえてくれないかい?このままじゃ獲物がとれなくて大変なんだぞ」


「出てる?ちょっと待って」


自分では気が付かなかったが、とにかくも抑え込もうとして異変を感じた。抑えられない。というか、抑え方が分からなくなっている。


「………」


「どうした?」


固まるオレにラビが声をかけてきた。


「どうやってやるのか忘れちゃったわ」


「ええ……」


それからどうやってもやり方が思い出せず、ラビにお願いして魔法本に魔力を増強させるような魔方陣を探して貰おう。

結局本当に3日分軽く平らげて引かれた。

それでもまだお腹減ってるのが気になる。


「…嘘ぉ」


異変はそれだけではなかった。


目の前にある木が凹んでいた。これは焚き火に必要な木材を拾っている最中転けそうになって咄嗟に掴んだのだが、そんなに強く握った感じはしなかったのに枝が手の形に凹んでいたのだ。


しかも何やら手の甲に見覚えの無い痣も発見。


無機質な質感で、石のような鉄のような。とにかく黒く硬いものが皮膚に張り付いている。

引っ掻いても摘まんでも変化はなく、むしろ皮膚に埋まっているような感じだ。

見える範囲だと両手の甲に合わせて三ヶ所。左の親指側と小指の先、そして右手首の方。


何かやった覚えはないけど、痛くもないし動きにくいわけでもないので放置することにした。


まずはこの邪魔な角だ。


「この角を折りたい」


翌日。


そんなことを言ってみた。

灰馬に三人分の荷物とオレ、爬竜馬レックスにアレックスとラビ。


目を丸くして二人して顔を見合わせ、ほとんど同時にグーサイン。


「それは…ナイスアイディアなんだぞ!」

「ナイスアイディアだ」


「そいつでなかなか街に入れなかったからね!角と魔力が邪魔だったから!」


「ていうか、有角族って言うことにするにしても、まず登録証に人間って書いてるし、角の色もおかしいしな」


「いない?こんな色」


黒くらいいそうなものだけど。


「だいたい白乳色か茶色か灰色とか、じゃないかな。黒はな、絵本とかで悪魔の印みたいなものみたいな感じで描かれているのが多いんだよ。あといくつかあるんだけどさ」


そういえば、出会う悪魔の角は黒ばかりだったような気がする。


「絵本とか見たこと無いんだけど、他にどんなのがあるの?その、悪魔の印みたいなの」


「俺それに詳しいぞ!」


アレックスが勢いよく挙手。


「まず、悪魔の印は頭に黒い角を持ち、瞳は赤く輝き、神聖魔法が毒になり、力も魔力も強く、人を引き裂いて食べるのが好きな糞野郎!!………ごめん」


「待ってなんでオレの方向いて謝るの」


確かに当てはまってるけど!オレまだ悪魔じゃないから!!まだ人間だから!!


と思ってみても、まんま今の全て当てはまってるのはなんか、落ち込む。初めはこの呪いの装備だけだったのに、気付いたらどんどん人間から離れていってるんだよな。なんだかなぁー。


「そういえば、俺ライハの旅をしている理由知らないわ」


「俺も詳しくは知らないな。あと、その体質も」


後で話すって言ったよね、と、目が語ってる。


「…笑わない?結構嘘みたいな話なんだけど」


「笑うわけ無いぞ!どんな話であれ人の過去を笑うようなサイテーな人間では無いからね!」


「俺もだ!どんな話でも全部受け止めるよ」


「えっと、どっから話せば良いんだコレ。じゃあ…まずは、オレは初めここの世界の人じゃなくて──」

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