第286話 一人と一匹.3

思った以上に重装備になった。


そりゃそうだよ、雪山半分登って洞窟に潜るからね。マントと携帯カイロ必須だよ。もっともオレは既にアウソから携帯カイロを一つ貰ってるのでそれだけでも大助かり。


そして、コーワ製の物凄い水筒を手にいれた。勿論ナマコモドキは入れておける。しかも、今回はカリアから高かった高級ナマコモドキ(多分エルトゥフの時に良いものをカリアから渡されるって言われたアレ)も貰ってるので三週間分の水が確保出来ている。


といっても普通ね、ナマコモドキを二つ入れてる奴なんてそうそういないので、大きめのサイズを買わないといけなかったんだけど。途中地下水もあるから水に関しては問題ない。


問題なのは水が凍ることだ。水が凍るとナマコモドキも冬眠して水を出さなくなるので、それを防ぐべく水筒の内部に焼いた炭を入れるスペースがある。これによってナマコモドキは元気になるし、水も温かい。最高だね。コーワ人の技術に乾杯。


ということで、金をケチって凍死しては元も子も無いので、なるべく金は使って良いものを揃えた。それによって財布はえらい軽くなったが、また狩りで稼げば良い。幸い個人ハンターランクもパーティーランクも高ランクなので、どうにでも稼げるのだ。


『またこれ着るの?』


「ずっと服の中にいたら窒息するだろ」


『ウム~』


そしてウォルタリカで買ったネコの防寒服。エルトゥフの森で寒さが和らいだから脱いでたけど、まさかのまた活躍の場がくるとはね。買ってて良かった。


ネコはモフモフの冬毛に変化させれば言いとか言ってたけど、万が一の事があるので却下した。でも冬毛にはなってて下さい。


そして馬の装備。


「…………ゴツイ」


洞窟潜りならこれだと、プローセルン製の馬具を勧められるまま購入し装着すると、戦馬の様な見た目になった。マテラの割りとカラフルな馬具でも迫力あったのに、更にだ。心なしか灰馬の攻撃力でも上がったような気がする。


「食糧よーし、カイロよーし、地図よーし、ネコよーし!」


問題なしだ。


空が明るみ、日が昇り出した頃にオレとネコは出発した。


目指すはリューセ山脈、ヤマネ洞窟。












『あるーひっ、もりのーなーかっ♪』


ネコがご機嫌に歌っている。避難民はルエン街で東へと進路を変えたので誰の目も気にすることなく翼を広げて飛ぶ練習をしている。

山之都で教わったコツを思い出しつつ羽ばたく度に、オレの魔法が掻き消される。

しかも成功したと思った瞬間に、だ。さすがネコ。


そう、オレは今雷以外の魔法を覚えるべく練習中なのだ。練習しているのは旋風属性。ニックの本の間に、属性開発の為のメモが挟まっていたのだ。


しかもメモの下の方に、


ーー乗馬中暇潰し感覚で少しでも練習しとけ、そうして縁の糸を繋いでおけば、魔具で違う属性を使うときに成功率があがる。


とあった。


確かに乗馬中は魔方陣の勉強も練習も出来ないし、頭のよいこの灰馬はある程度放っておいても言われた地点までは状況を把握しながら進んでくれる。なので、暇を持て余しているときは皆と話したりしてたんたが、現在話し相手はネコのみ。おまけにネコも飛ぶ練習中。


そんな状況をまるで見ているのかのように的確なメモを残す辺りオレはあいつに勝てそうもない。


「うーん、やっぱり難しいな」


というわけで、ニックのメモ通りに、イメージのしやすい風を発生させようとしているのたが、なかなか難しい。手のひらが涼しくなったと思ったら消えるし。渦っぽいのができそうと思ったらネコの起こす風に負けて消える。


ニックいわく風を練習するなら葉っぱを掌に置いてやるといいと書いてあったが、乗馬中は常に前から風が吹いてるのですぐに飛ばされてしまった。


では火ではどうかとやってみたが、車の窓付近でライターで火を着けるとどうなるか想像してほしい。すぐに吹き消されて練習にならない。


なら、水かとやってみるも、なんかイメージがうまくいかず、土ならどうかと思ったが、イメージすらできない。


そもそも土の魔法使うのって、コノンくらいしか見たことないし、そもそもコノンの魔法もどちらかと言えば掌から出すのではなく、周りの土を操る感じなので、乗馬中はムリゲーである。


「新しい属性の取得って、大変だな」


他人事のように呟く。

でも火の属性くらいは手に入れたいな。なんせ目的地が雪の積もる山脈だからな。




そうしてまた2日程走らせ、ようやくオレはリューセ山脈の麓に辿り着いたのだった。

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