第282話 鞘の人達.5

緊急事態と言うことで、本ギルドが本気を出し、情報収集を行っている。それを虎梟を飛ばしまくって周辺のギルドへと連絡を伝え、それをハンター達へと伝達してきた。


それによると、先程の攻撃の被害状況が判明した。南に位置している、ルキオ、マテラ、華宝国南部、禽居乘、ビャッカ諸国、山之都南部、モントゴーラ、イリオナ、ゾーロス、等。主に大陸南西部が襲撃を受けた。そして、なんと海側から魔物の群れが上がって来ている。特にビャッカとルキオ、マテラの被害が凄く、救援要請が掛かっている。


「ルキオが……」


アウソが青ざめた。カリアも心なしか顔色がよくない。


そしてほぼ同時に各国でも魔物が湧き出して、大混乱に陥っているのだという。この状況から、ギルドは第三次人魔大戦が開戦したことを発表したのだった。


「すぐさまスキャバードは湧き出している魔物の処理と、後は南の地方の支援活動を。ライハから見せてもらった地図の裂目と魔方陣を印してある物を配布するから、このあとリーダーは集まるように」


「カリア、お前さん方は南に行くか?」


「ああ、ルキオは海に囲まれている、いくら龍の加護があっても苦戦が強いられていると思う」


「では、南はカリアのパーティー羅刹と、テッドのパーティー、それとーー」


ブブブとポケットでスマホが震える。

少し後ろに下がりスマホを起動させると、またウィンドウが表示されていた。そこには『緊急』の文字。またあの攻撃が来るのかと急いで開くと、そこには山脈を越えた前のドルイプチェへと向かえと書いてあった。


(…………)


『ライハ?』


ネコが心配して声をかけ、画面を覗き込んで目を見開いた。


『…………これ……』


「ライハ、どうしたの?  !!」


キリコも画面を見て口を閉じた。

スマホには神からの緊急の指令が。けれどもルキオは大変な事になっている。現にオレもザラキやジュノの獣人ガラージャ達、シルカのハンター達、チクセのレーニォの顔が次々に浮かんでいた。無事なのか、それとも……。


悪い予感がよぎるが必死に掻き消す。


「ーーという感じに活動を。各自最善を尽くし、犠牲を減らすこと。そして、勇者ライハ」


周りの視線が一斉にこちらを向いた。


「貴方は貴方のやるべきことを成しなさい。とは言わない。だけど、よく考え、貴方が一番やるべきと思ったことをやりなさい」


どこまでも見透かすような白い瞳が、細められた。きっと、ユエ婆はオレに神からの指令が来たことを知っているのだろう。


「…………はい」


「大丈夫。貴方はきっと成し遂げられる」


ユエ婆はそう言うと、柔らかく微笑んだ。














簡易テントを張り、順番で見張りをしながら体を休める事になっているが、正直、休めない。


あれは悪魔の攻撃なのか。

いや攻撃なんだろう。でなければスマホに意味深なマークが出るはずない。あのマークが出た後すぐに攻撃が行われた。


「………………でも、どうして」


あんな海上に魔方陣が。

魔方陣は基本何かしらに描かないと発動しない。言霊やオレの使う感覚系とは違い、線の一つ一つに意味があって、それを機械の回路の替わりとしているのだ。


空には魔方陣は描けない。


あらかじめ魔方陣を描いた物を使うにしても、あの数だ。無理がある。


「…………」


寝返りを打ちつつ、スマホを起動させ、神からの緊急の指令を見る。ドルイプチェ国は山脈の向こう側だ。ルキオは真逆。行きたいのはどちらかと訊かれればもちろんルキオだ。


ましてや支援要請も出ている。


だが、こちらも『緊急』だ。きっとルキオに行ってからじゃ間に合わない物だ。

ルートは二つ。選べるのは一つ。


だいたい、なんでこんなタイミングでなんだ?もっと良いタイミングがあったはずだろうと思ったが、こんな事態だから来たのかと思い直した。


オレは勇者の役割を背負ってる。

勇者なんて、ゲームの中じゃ特別な存在で、強い心を持って敵をバシバシやっつけて世界を救う役割だ。だけど、そんなの、ホールデンの時からオレにもっとも不似合いな役割なのは充分知っている。


たけど今回は、召還されて勇者になったわけではなく、神直々と話をして了承したもの。自ら選んだやつだ。いや、若干仕方なくってのはあったけど、それでも蹴らずにオーケーしてしまったのは自分だ。

ならば、責任は持たなくてはならない。


「…………、来てくれとは言えないな」


アウソは故郷をやられている。カリアもザラキが心配だろう。ザラキは強いから死んではないと思うが、それでも、何らかの被害はあるだろう。


残るはキリコだが、キリコもどちらかと言うとカリアに着いていった方が良い。


「……あんなに前一人でホールデンまで行くって言ってたのにな」


無知だったオレは、この世界のことを何も知らずに、一人で帰れると本気で思っていた。

だけど、いざ、離れるとなるととても辛い。


まだまだ教わりたいことが山ほどある。

もっともっと一緒に戦って技術を盗みたかった。


だけど、別れはいつも唐突に、だ。


腹を決めろライハ。

辛いのはオレだけじゃねぇ!!

なんなら、早くこの騒動を沈静化させて、強くなって会いに行こうくらい思おう!!


「よし」


起き上がると、端っこで丸くなって寝ているネコを揺すった。


「ネコ、ネーコ!」


『なんだよもう。まだ時間じゃないだろ?』


「出るぞ」


『トイレ?』


「違うわ! じゃなくて、これの目的地に行くんだよ」


スマホを見せると、表情を曇らせた。


『行くの?』


「行く」


『皆とはもしかして別れるの?』


「そうだよ、カリア達の目的地とは逆だからね。ルキオは心配だけど、緊急って書いてあるから、こっちをさっさと終わらせて行くのも有りかなと思った」


実際、この依頼を終わらせてルキオに行けるかどうかは分からないが、そのつもりで行った方が気が楽だ。


『なるほどー』


だけどその案をネコは納得したみたいだが。

素直なやつで良かった。

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