第283話 分岐

少し崩れたスキャバードの建物内に入り目的のものを探す。幸い荷物は無事だった、そのまま担げばすぐにでも出発できる。問題は灰馬だ。死んでないだろうな。


『ねぇ、本当に行くの?夜が明けてからでも良いんじゃない?』


「バカ野郎、夜が明けて改まって別れを告げたら泣くかもしれないだろ!!オレが!!!」


こういうのに弱いんだよ!


ええー、という顔をされたがもう決めたんだ。揺らぎやすい性格ナメんなよ。やると決めたからには早く行動しないと考え変わっちゃうんだよ。


「それに出来るだけ早めに出発すれば、早めに合流できるはず。山脈を超えないといけないけど、それだって遅ければ雪のせいで遠回りをしないといけなくなる」


その為にもサクサク準備して早く行かなきゃ。


服も破けた所は既に修復しているし、荷物も薬も本もしっかりと持っている。後はあの灰馬だが、一応見張りの奴にそれとなく場所を聞いたが、無事かどうかの確認はとっていないという。死んでいたらどうしようと思ったが、あの馬は図太いから、ひょっとしたら綱噛み千切って脱走済みの可能性も否めない。そうなったら最悪歩きだな。


どうか無事でいますようにと願いながら馬小屋を覗くと、奴は無事だった。


攻撃の欠片が当たったのか柱が削れ、綱が千切れているが、それでも脱走しないでそこに居た。偉いぞ偉いぞ!


隣の建物から自分のあぶみを見付け設置していると、後ろに人の気配が。


「やっぱり行くのか」


「カリアさん…」


暗がりにカリアの姿、遅れてもう二人現れた。


「キリコさん、アウソも……」


設置に夢中になっていたからか、こんなに接近されているなんて気付かなかった。馬小屋に書き置きしておこうと思ってたのに、無駄になった。


「行きます、でもどうして分かったんですか?」


なるべく気配を絶って行動していたのに。


「昨日、キリコがあんたの様子がおかしいって聞いて。テントに居ないから、見張りの奴に訊ねたら馬小屋を探してたって聞いてね。神からなんか来たんだね」


「はい。緊急でドルイプチェへ行けという事でした。……大丈夫ですよ!バッと行って、すぐルキオに行きますから!」


すぐですよ!と比較的明るく言えばカリアが苦笑した。


「……、まったく。まさかこんな感じに別れるとは思わんかったけど」


カリアの手が頭に乗る。大きく力強いが、とても温かな手だった。


「一つ、贈る言葉があるから良く聞くよ。どんなことがあっても、自分は殺すな。分かったね」


「はい」


微笑みながらカリアの手が頭から退いた。


「あんた結構弱いんだから、これ持って行きな」


と、キリコが手渡したのはハーブが詰まった瓶。何が弱いのかと思ったらメンタルの弱さ心配してくれていた。


「俺からはこれさ。絶対に寒いから、風邪引かんようにな」


と、アウソからは焼いた炭を入れる携帯カイロ。


「お前これウォルタリカで買ったばっかりのやつじゃないか」


「いーんだよ、お前のが絶対必要なものだし」


目的地つく前に凍死されたらかなわんと言われた。この時点でもう涙出そうなんですけど。案の定鼻の奥がツンと痛み、目元がじんわり熱くなってきた。

それを見せたくないのと、感謝の意味を込めて、深く頭を下げた。


「お世話になりました…!」


そして、頭を上げて三人をしっかりと見た。


「行ってきます!」


「ああ、行ってらっしゃい!ネコもよ、ライハをよろしくね」


『そっちも気を付けろよ!』


灰馬に跨がり、前を見据え走らせる。

後ろを振り返らず、ただひたすらに前を向いて、オレは山脈を目指したのだった。



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遠ざかる背中が闇に消えるまでカリアは見送った。


「はは、あいつ振り返らずに行っちまったな」


「アウソ寂しいの?」


目元を擦るアウソにキリコが訪ねた。


「寂しいに決まってる。キリコさんはどうなんすか?」


「アタシだって寂しいわよ。でも、これでもう二度と会えないわけじゃないから、また会える時まではしっかりと強く生きて、胸を張っておかないとね」


「キリコさんらしいです」


カリアは少し大きくなった背中を思い返し、腕を組んだ。さて、弟子が頑張ろうとしている。なら、師匠は弟子に負けないようにもっともっと頑張らないとね。口許に笑みを浮かべ、メソメソしている弟子二人に向き直った。


「さあ!ライハに負けないようにコッチも戦果を上げるよ!!夜が明けたら、出発する!!しっかりと準備しな!!」

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