第252話 素材を集めよ!.5

朝、サンゲン街へと戻ってきた。

結果としては文句なしの合格であった。


誰一人として傷付かず、かつ、必要最低限の苦痛で依頼を達成させたから、だという。


なんでルパで不合格になった奴等がいたのかは不思議ではあるが、多分、夜に現れたルパを一匹ずつ仕留めていってるうちに仲間を呼ばれてボコボコにされたのだろう。


小さいからと舐めてはいけない。小さくても獣だ。牙も爪もある。そして毒も。


袋の中に詰められた毒爪が歩く度にカチャカチャと音を鳴らした。

これはギルド式の依頼達成の証。


普段は丸ごと素材屋に持っていってるが、今回は爪だけ貰って、後は全部サプにあげた。ルパの毛皮は、加工すると良い装飾品になるしな。


ギルドに戻ると、昨日の笑ってたやつらがこちらを見てまたひそひそ始めた。まぁ、めんどくさいから無視だがな。


「これが試験結果です」


アーリャが昨日纏めていた書類を提出し、受付嬢はそれに目を通した。


「はい、確かに。書類内容を拝見するに、更に上のランクそのまま受験することが可能ですが、如何しますか?」


ザワッとこちらに聞き耳を立てていた奴等がざわめきたった。こっちのことはいいから自分達の事に集中してろよ。


「どうする?」


カリアが一応こちらを向いて確認をする。


どうする?って、そんなの、なぁ?

そんな感じでキリコとアウソと目が合い、カリアに頷く。


「お願いします」


「畏まりました。それでは、次の試験内容はこちらになります。アーリャ、またお願いできますか?」


「分かりました!」


カリアが依頼内容を記してある紙を持ってきたので、それを確認しようとすると、何故か周りの奴等も覗き見てこようとしたので後で見ることにした。一旦綺麗に畳んで仕舞う。


「それでは行きましょうか」


アーリャに促されギルドを出るが、まだ視線が付いてきた。


「なんで追ってきてんの?」


「さぁ?」


「恐らく、バカにした相手が一晩でランクを上げてきたので気になっているんだと思います」


それにアーリャが答えた。

冷静に答えているが、何だろう。回答内容が容赦ないんだけど。


「巻いて良いですか?」


しつこいの嫌いなカリアが眉間にシワを寄せながらアーリャに訊ねた。そうとう嫌なんだな。街中では威圧を使ったら不味いから使えないし、かといってそのまま付けられるのは気分が悪い。オレ達の駿馬なら余裕で引き離せるけど、アーリャを連れていてはそれすらも出来ない。


巻くなら、アーリャ一人くらいなら担げば問題ない。誰が担ぐかはじゃん拳になるけど。


「分かりました。では門を出たところで落ち合いますか?」


と思ったらアーリャは自ら別行動を提言してきた。確かに、試験官をしているならそれなりの身体能力はあるだろうから、そっちのが確実か。


「そうするよ。では、また後で」


「それでは」


アーリャに手を振り、別方向を向いた瞬間、オレ達は全力で駆け出した。











今日、溜まり場となっている俺等のギルドに新参者がやって来た。


でかい青髪の女が先頭で、その後ろには赤髪の何処かの民族衣装みたいなのを着た女、茶髪のやたら厚着をしている肌が褐色の若い男、そして黒髪で、尾の長い黒猫を頭に乗せた若い男の四人組だった。


旅人は珍しくはなかったが、その四人組はなんだか異様な雰囲気を纏っていて、思わず視線を向けた。

初心者にしては体の使い方がしっかりしている。

フリーハンターか?


先日パーティーランクの昇進試験を落ちてイライラしていたギルドハンターのオッドスはフリーハンターというものが気に食わなかった。


ふらふら放浪しては適当に狩ってきた獲物を売って生活をしている奴等。パーティーランクを上げようともせず、定住する気もない。別名、盗賊や遺跡荒らしと呼ばれている冒険者と同じく身分が下の放浪者。


それが、まるで我が物顔でギルドにやって来た。


「………ケッ」


ちっと痛い目を見せるか。


何食わぬ顔で後ろを歩く黒髪の進行方向に足を伸ばした。

後ろを歩いていると言うことは、きっと新入りか、荷物持ちか囮の奴だろう。そいつを転ばせば前へと転んで将棋倒し前のやつも巻き添えだ。


だが。


そうはいかなかった。


スッと、まるでそこに足が置かれるのを分かってたかのように、普通に避けやがった。顔は明後日の方向を向いているのに、だ。


(………ムカつくな)


しかし避けられてしまったものは仕方がない。諦めて様子を伺うと、そいつらはなんとパーティーランクがEだったのだ。なんだ、避けたのは偶然だったのか。しかも、持ってきた紙は何かのリストだったらしく、その全てがCランク以上でしか採掘不可の物だったらしい。


俺達は仲間と一緒に笑った。バカじゃねえかと。


正に身の程知らずってやつだ。


すると奴等はパーティーランクを上げるために昇進試験を受けると言う。笑った。何の準備もなしに試験を受けて受かるはずがない。しかも受けた試験はきっとルパの討伐だろう。


フリーハンターだがなんだか知らないが、ルパはきちんと連携が取れないと討伐しきれない魔物だ。痛い目見やがれ。


しかし、予想は裏切られた。


奴等は一晩でランクを上げやがった。


ふざけるなよスットコドッコイ。きっとアーリャちゃんに賄賂を渡したに決まっている。

真相を暴くべく、次の依頼を覗き見ようとしたら、視線に気付かれたのか仕舞われてしまった。それなら、尾行して現場を押さえてやろう。


仲間に目配せしてこっそり後を付けた。幸いにもまだ気付かれてはいない様だ。


「ん?」


しかし、突然奴等は二手に別れ、別々の道に走った。俺達は慌てたが、同時に喜んだ。逃げると言うならやましいことがあるからに決まっている。


「アーリャちゃんを追え!俺達は奴等を追う!」


「わかった!」


そうして前を向くと、既にアーリャちゃんは姿を消していた。しまった、魔法を使われたか。ならばと奴等を追おうとすると、なんと奴等の姿は小さくなっていた。バカみたいに足が早い。なんだこの早さ!?


それでも負けるものかと付いていき、息を切らせながらも奴等が横道へと消えたのが見えた。

バカめそこは袋小路だ!


口元に笑みを浮かべながら、奴等があたふたしている姿を拝んでやろうと通路を覗くと、そこにはただ汚い地面だけが残されているだけだった。


奴等の姿は何処にもない。


「……うそだろ…」


まるで幻術に掛けられたかのような気分だった。静かに肩を落としつつ、俺は静かにギルドへと戻るために歩き出した。

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