第236話 黒い噴水

「どうした?ーーってうわあ!」


クユーシーの元へ行くと、凄い数の風の精霊フーシアの光に囲み込まれていた。


その横でイヴァンが目を点にしてグルエルの後ろから覗いていた。顔はおっかなびっくりって感じ。精霊を見慣れていないのか。


「ライハさん、今連絡が来て、精霊達が火種蟲が湧き出している穴があるそうです!」


「穴!?」


「もしかしたらそこから火種蟲を放ったのかもしれません!」


キリコが頷く。


「分かった!じゃあ急いで止めないとね!駿馬を用意して!!」


「わかりました」


エルトゥフの男が駆けていく。


「ライハ行くよ!アウソは?」


少し遅れてアウソ到着。


何事ぬーやが?」


「火種蟲が湧き出してる穴があるって」


「分かったさ」


『ちょっと待って!』


ネコが一旦泉の方に戻り、何かしてから戻ってきた。


「え?どういうこと?」


訳がわからんという顔をしているイヴァン。

彼は一般人だ、ここに残ってもらった方が安全だ。


なんだ?なんだ?とアンドレイと仲間達がここに向かってきていた。説明する時間も惜しい。


「ここに残っててください。詳細はクユーシーから」


そう言い残して、オレ達三人は風の精霊フーシアの案内のもと、用意された灰馬へと跨がり走らせた。







灰馬達は森のなかを駆けていく。


根があろうが草があろうがお構い無く突き進んでいく。通常駿馬は森のなかでスピードを出しにくいが、うちの駿馬達は常に道ではない所を走らせ続けたため夜の足元が見えにくくても関係なく走っていく。


ネコが鼻をひくひく動かす。


火種蟲の臭いでもするのか。


「!」


不自然な影が落ちている。

空を見上げ、そこでようやく、オレはここが何処なのか分かった。


石になったリューシュの巨体が空を覆っている。


オレ達はリューシュの尾を目指しているらしい。


ズズズンと地面が揺れた。

見ると、尻尾の撤去作業をしていたゴーレムがしきりに地面を叩いていた。


しかし、突然ゴーレムは体を掻き毟る仕草をしたかと思えば崩れ落ちた。


「急ごう!」








しばらく走らせ、突然地面が黒い物に覆われた。

馬が走る度に何かの潰れる音と、蹴りあげられる小さな黒い物。火種蟲だ。


「うっげえええ!!!」


「まじかよこんなにいるのかよ!!!」


鳥肌が止まらない。


「ライハ前!!」


「!!」


前を向くと、火種蟲の小山が出来てた。

あそこが穴がある場所か。もっとも今は湧き出す火種蟲のせいで山にしか見えないけどな!!


どうしようここまで湧き出してるとは予想外だ!!


まずは出てきている火種蟲をどうにかしないといけないのに、案がない。


そこで、ふと何故か頭の中に案とは言いがたいが、広がらせないようにする方法を思い付いた。といっても精霊の力が必要だが。


オレはアールヴらしいが、あいにく精霊に手助けをお願いしたことは一度もない。だけど、やってみる価値はあると、意識を集中して口笛を鳴らした。


すると空からいくつもの風鳴りが聞こえてきた。


高く、低く、抑揚を付けながら鳴り響く音。

アウソが空を見上げビビっていた。


空には2頭の風龍が、風の精霊フーシアを纏いながら浮かんでいた。今回の形はマンタか。


ーーシャンラカラよんだ


通じるか?


息を吸って更に集中した。


「地面にいる黒い虫を風の壁に閉じ込めてくれないか?」


声が二重に聞こえる。


風鳴りに似た言葉がスラスラ紡がれ、それに風龍が頷く。

よかった通じた。


周りの空気がザワザワと蠢き、突風が吹き荒れる。しかしそれは竜巻のように虫を巻き上げ、風の内部へと落とす複雑な吹き方だ。


「お前いつ風龍と契約したば?」


「してないよ」


「それにしてはでかしたわ!!」


賭けだったけど、良かった。


「アタシは少しゴーレムの方を見てくる!風龍に頼んでゴーレムの方にも同じの出来ないか頼めない?」


「やってみます」


頼んでみれば即答してくれた。

風龍って気紛れじゃなかったっけ?

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